ダーク・ファンタジー小説

Re: 破壊ノ少年ト修復ノ少女[参照800突破ありがとうございます] ( No.82 )
日時: 2015/04/03 02:43
名前: 穂逆 深去 (ID: BzoWjzxG)

「あの、それで、どうなったんですか?一縷は」

俺がそう聞くと、ノゾミは一層悲しげな顔をした。
本当は思い出したくもないだろう。
両親が死んだ時の話なんて。
自分が死んだ時の話なんて。

「俺らが着いた時、一縷は錯乱していた。
…そしてそのまま”破壊の眼”のままで俺達を視たんだ」

「………………」

「”視られて”しまった俺の両親は誘拐犯と同じように
”精神破壊”されて、死んだ。俺もそうなる筈だった…」

でも、”そう”はならなかった筈だ。
彼女はこうして、一縷の体を通して俺に喋りかけているのだから。

…一縷の体を、通して?



そういえば彼女は何故こうして、他人の体に入れるのだろう?


(まさか……)


「俺は、”憑衣神”なんだ。他人の体に入り、
その体の意識を一時的に自分のものとする事が出来る」


「……!!」

「”あの時”、俺は倒れていた誘拐犯の体に無意識に”憑衣”して、
一縷の眼の死角に逃げた。
ただ……”戻れなく”なった」

「”戻れなく”なった?
どういう事ですか?」

俺がそう言った瞬間、ノゾミは今までで一番悲しい顔になり、
目をゆっくりと閉じて言った。

「……家に、一縷と、父と、母と、自分の体を運び込んだ後、
自分の体に戻ろうと、したんだ。
だけど…”俺の体”はもろに”精神破壊”の影響を受けたから
…精神の器みたいなモノが壊れちゃって……」

自分の体に、戻れなくなった。
それで彼女は大丈夫なんだろうか。
俺だったら耐えきれない。
壊れてしまう。
一縷に破壊された人々のように。

「…それ以来、一縷は他人と深く関わる事を止めた。
壊してしまうから、そう諦めて」

「…………………」

「…君だって”壊れて”しまうかも知れない。
それでも、君は一縷の”友達”でいてくれる?」

ノゾミのその問いに、俺ははっきりと答えた。

「勿論です。死んだり、壊れたりするのは、本望ですから。…だから」

「…なに?」


「ノゾミさんも、俺と友達になって下さい」


俺の予想外の言葉に、ノゾミは目を見開いて驚いていたが、やがて

「……ありがとう」

と、小さく言って、笑った。
その言葉がどのような気持ちからでたのか、俺には分からない。
だけど。
俺はきっと、その笑顔を一生忘れない。

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とある地上の月夜の晩。

「”ナニ、これ………”」

金髪の青年は、夢を見ていた。
それは、自分の昔の思い出だった筈のモノ。
本当に忘れてはいけない、記憶。
なのに、どうして。

「”…何も、響かない。あんなの…俺じゃない。思い出せない”」

思い出してはいけないと、心が叫ぶのだろう。



同時刻。
体の動かなかった筈の少女は、歩く。その目から大粒の涙を流しながら。

「…思い出してよ、みんな。…リズ、一縷………」


愛しかった人たちの名前を呟いて。


少年少女は交差する。
幾度もの輪廻の果てに。