ダーク・ファンタジー小説
- Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.10 )
- 日時: 2012/06/21 07:21
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: lwQfLpDF)
- 参照: 主要キャラは全員出揃った! ——はず。
No.5
「アイス買ってきましたよ——って、上弓さん、来てたんですか」
先程と同じように散らかった部屋に、一人の男性が増えていた。
上弓玄、二十歳。
明るい茶色に染めた髪が目を引く。目が大きくて、それなりにイケメンである。
「よーっす、黎!」
「……………どうも」
軽々しく声をかけてくる上弓に返事をしながら、黎は部屋の中へ入っていく。
見ると、漆はイスに腰掛け、足を机の上に乗せている。そして、うちわでパタパタと自分を扇いでいる。
「行儀、悪いですよ」
だらけきった漆に一言言ってから、先程コンビニで買った袋を差し出す。
「どうぞ」
「サンキュー」
漆は早速袋からアイスを取り出し、それを食べ始める。
「上弓さんもどうぞ」
自分の分のチョコアイスを取ってから、黎は袋ごと上弓に渡した。
袋の中を見た上弓は、「俺も黎のアイスの方が良い」と文句を言った。
しかし、黎はアイスをすでに食べ始めていて「嫌です」と一言言った。
「何で全部違う種類を買ってくるかなぁ… ?」
ブツブツと上弓が言うが、黎は完全に無視している。
「チョコが良かった。バニラ嫌」
「で、仕事はどんなですか?」
アイスをかじりながら黎が漆に訊くと、彼女は黎を睨み付けた。
「食事中に会話は禁物」
簡潔にそう言って、漆はアイスを食べるのに没頭する。
「 …… そうっすか」
半眼になって、それから室内を見回す。
部屋はじめじめとしていて暑い。にも関わらず、部屋の窓はすべて閉まっている。クーラーがついているわけでもないのに。
「漆さん、いい加減、クーラー直してくださいよ」
すると、漆は黎を一瞥したあと言った。
「そんな金あったら、お前らの給料増やすよ」
「 …あ、そう言えば、先月分のバイト代、貰ってませんよ!」
それまでずっと黙ってアイスを食べていた上弓が漆に抗議する。
「あー、うるさい。来週には渡すから。色々と困ってるんだよ」
「だからって、こっちだって困ってます!」
「うるさい、黙っとけ」
上弓はまだ釈然としない表情だったが、取り敢えずは口を閉じた。
「あー、それに比べて黎は良いねー」
微かに笑いながら漆が言う。
「おれですか?」
突然自分の名前を出された黎は少し驚いた。
「そうだよ。給料の取り立てしないし」
「取り立てって……………」
ヤクザか何かですか、という言葉は口に出さない。
「と言うか、窓くらい開けてください」
言いたかった言葉を言うと、漆は渋面を作った。
「無理だ」
「なんでですか?」
「窓が壊れて開かない」
「はぁ !?」
そんなことがあるのかと思い、窓を開けようとしたが、しかし彼女の言う通り、名瀬か窓は開かなかった。
「どうなってんすか? これ… 」
このアパートの古さに呆れながら黎が訊いた。
「知らん。取り付けが悪いんじゃね?」
「……………」
「錆びてるんだよ、きっと」
上弓も自分の意見を言ってくる。
「どうでも良いです ……… 」
このアパートの古さを改めて実感して、黎は小さく呟いた。