ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.24 )
日時: 2012/06/27 07:32
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: 7H/tVqhn)
参照: 私の部屋も散らかってます。

No.11

「漆さん、入りますよー?」

 古いドアをノックすると、中から「おーう」と言う声が聞こえた。

 キィィと不気味な音をたてて開く扉。

「このドアも、もうすぐ壊れるんじゃないですか?」
「失礼だな」

 イスに座って腕組みをしていた漆は半眼になった。

「このアパートはそんな簡単につぶれないよ」

 そうかなぁ、と思いながら、散らかった部屋の中へ入り、ソファに腰掛ける。

「漆さん、掃除はしないんですか?」
「年末に大掃除するよ」
「……………」

 黎は遠い目をした。

「今は、七月ですよ?」
「知ってる」

 「そうですか」と返し、黎は溜め息をつく。

 この人は、大丈夫だろうか。

 黎が本気で漆のことを案じていると、そうとは知らない彼女が訊いてきた。

「で、月影冬夜はどうだった?」

 その言葉で、黎は気持ちを切り替える。

「月影冬夜と同じクラスの生徒に訊いたところ、友達いなくていつも一人で無口で近寄りがたいそうです」
「 …それで?」
「虐められてるそうです」

 その言葉に、漆は目を見開いた。——哀しそうに。

「そうか… 。そうだ、新しい仕事が来た」
 そう言いながら、ノートパソコンを操作する。

「これだ」

 パソコンに届いている一通のメール。

「『死にたい。簡単に死ねる方法は何ですか』——かぁ」

 メールの内容を声に出して読んだ黎は、首を傾げた。

「簡単に死ねる方法って、何ですかね」

 すると、漆は静かに言った。
「 …死ぬのに簡単な方法なんて、無いよ」

 黎は漆を見た。
 哀しげな瞳をした漆。

「自殺っていうのは、したらいけないんだよ」
「 …——」

 黎は思っていた。
 漆は時折、こんな哀しそうな表情をすると。

 遠くで、セミの声が聞こえる。
 そんな沈黙を破ったのは漆だった。

「よし、玄にこのこと調べさせるか!」
 漆はそう言って、立ち上がった。

「もう少ししたら帰ってくるから、玄に言っといて」
「 …はい。——て、漆さんはどこ行くんすか?」

 扉に手を掛けている漆を見て、黎は訊いた。

「ムーンと散歩してくる」
 漆は振り返ってそれだけ言うと、出ていってしまった。

 一人残された黎は小さく呟いた。
「……………猫と散歩するんすか」