ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.44 )
日時: 2012/07/06 07:26
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: uyKWZpxa)
参照: 記念すべき(?)第20話!

No.20

「じゃ、何か、お菓子でも持ってくるよ」
 そう言って、月影冬夜は階下へと降りていった。

 月影冬夜の部屋に残された黎は、部屋の中を見回した。

 部屋に置かれているのは、勉強机と本棚、ベッドにタンス、それに小さなテーブルという、極普通のばかりだ。
 部屋には一つの窓があり、今はカーテンが閉まっている。

 黎は立ち上がり、そのカーテンから外を覗いた。
 すると、丁度、隣の家の欅潤のベランダが真ん前にあった。
 さほど離れていないので、頑張ればベランダに入れるな、と考え、部屋の様子を探る。

 そこは明かりも点いていなく、暗い部屋だった。
 しかし、一つの場所から光が発している。パソコンの電源が入っているのだ。
 そして、その前に一人の少年が座っていた。

「あいつが…、欅潤」

 離れているし、暗いので、はっきりとは見えないが、彼で間違いないだろう。

 そのとき、ドアの開く音がして、月影冬夜が手にお盆を持って現れた。
 お盆の上には、紅茶が入ったコップとイチゴの乗ったショートケーキが二つ目ずつ乗っている。

「潤がどうかしたの?」

 テーブルにお盆を置いた月影冬夜は首を傾げて黎に訊いた。

「…え、と。いや、あの…」

 さっきから、おれ、絶対怪しい奴だよ。
 そう思いながら、笑って誤魔化す。

 シャッとカーテンを閉めて、黎はテーブルの前に座る。

「美味しそうなケーキだなー」

 挙動不審の黎を月影冬夜は不思議そうに見ていたが、何も訊くことはなかった。

「潤って言うんだね。あの子」

 ケーキを一口食べてから黎が訊くと、月影冬夜は頷いた。

「うん。そうだけど…?」
「仲良いの?」

 そう訊くと、月影冬夜は哀しげに笑った。

「昔は仲良かったけど、高校が離れてからは……」

 聞けば、家が隣同士と言うこともあり、幼い頃は二人でずっと遊んでいたそうだ。
しかし、高校受験で月影冬夜が隣街の聖音高校に、欅潤は鳳音高校に行ったため、それからは話もまったくしていないと言う。

「けど、冬夜君は何で聖音高校に入ったの?」

 聖音高校は隣街で、欅潤が通っている鳳音高校の方が家から近いはずだ。
 そう思って聴くと、月影冬夜は苦笑いした。

「僕、ばかだから、鳳音高校は受からないって言われて………」

 それを聞いて、黎は「あぁ」と納得した。
 欅潤が通う鳳音高校は県内でも有数のトップ高校だ。それに比べ、黎や月影冬夜が通う聖音高校は、あまりレベルが高くない。むしろ、低い方だ。

「…だから、潤も勉強大変みたい」

 月影冬夜の言葉に、黎は引っ掛かりを覚えた。

「勉強大変って、何で知ってるの?」

 高校に入ってからは、話もしていないはすだ。
 そう訊くと、月影冬夜は「あぁ」と言って、教えてくれた。

「親同士が、仲良くてさ、よく話してるみたい」
「…ふぅん」

 なるほど、そういうことか。
 ちらりと欅潤の家の方を見たが、カーテンが閉まっているので見ることは出来ない。

 そのとき、月影冬夜は小さく呟いた。

「家が隣なのに、挨拶もしなくなったなんて…、悲しいよね」