ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.56 )
日時: 2012/07/13 13:19
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: LkHrxW/C)
参照: バスが目の前を過ぎ去っていきました。次は一時間後(泣)

No.27

 その様子を、近くに止めた車から見ていた黎はポカンと口を開けた。

 運転席に座った漆は勝ち誇った表情で言った。
「ほら、見ろ。言った通りだろ?」

 漆の作戦とは、自殺すると書いたメールを読んだ月影冬夜は慌てて、鍵も閉めずに家を出ていく。その隙に月影冬夜の家へ入り、月影冬夜の部屋の窓から欅潤の家のベランダへ行く——というものだ。

「——つーことで、まぁ、行ってこい」

 助手席に座った黎の肩をポンと叩いた。

「………不法侵入、ですよね?」
「気にするな」
 これ以上ないほどの笑顔で漆が言う。

「さ、行ってこい!」

 ドンと押され、黎は車から降りた。

 その黎は、暗めの茶色の髪をしていて、長い前髪が目を隠している。更に、季節外れの黒いコートを羽織っている。短いズボンを穿いていて、黒いブーツがよく見える。

 振り返った黎は渋い表情をして呟いた。
「……………何でおれ、こんなカッコしてるんですか?」
「変装!」
「絶対それだけじゃないでしょ!」
「まぁな。そっちの方が萌える!」

 ウハウハしている漆を置いて、黎は月影冬夜の家へ入っていった。

 しんとしていて、家には誰もいない。確か、両親は共働きで、帰ってくるのは夜遅くだそうだ。
 それにしても、十一時まであと五分程だと言うのに、まだ帰ってきていないとは、大変

 黎は月影冬夜の部屋に入り、窓を開けた。
 そして、欅潤の家のベランダへと飛び移る。と言っても、さほど離れていないので、あっさりと入ることができた。

 時計を見ると、あと一分だった。

 少しだけベランダのドアを開ける。
 鍵は閉まっていない。

 時計を見る。

 あと、三十秒。

 気持ちを落ち着かせるため、深呼吸をする。

 あと、十秒。

 心の中でカウントダウンをする。

 五、四、三、二、一。

 十一時だ。

 黎はベランダのドアを勢いよく開けた。