ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.73 )
日時: 2012/07/21 18:35
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: WIx7UXCq)
参照: ここの板にも投票ボタンが設置されましたな。

No.35

「———っ…」

 欅潤は唾を飲んで、本の少しだけ右足を前に出した。
 右足の前半分は宙に浮いている。

「——だけど、本当にそれで良いの?」
「……っ!?」

 少年の言葉に欅潤は足を反射的に引っ込め、少年を振り返った。

「君は、本当に死んでしまって良いの?」

 少年が欅潤を真っ直ぐに見詰める。
 まるで、全てを見透かしているような目で。

「…良いんだよ」
 欅潤は小さく言った。

「僕は、もう、嫌になったんだ!」

 そして、欅潤は再び下を見た。

「……僕は、死ぬよ。ここから、——飛び降りる」
「…———」

 少年は何も言わずに欅潤を見詰めている。

「…どうせ、僕なんかが死んでも、誰も悲しまないんだ」

 小さく呟いたその言葉に、少年は静かに首を振って言った。
「いいや、いるよ」
「———え?」

 欅潤は少年を見た。
 とても、哀しそうな表現をして、笑った。

「悲しんで…くれる人。君には、いるよ」

 その時。










「———潤!!」

 悲鳴に近い声が聞こえた。

 それは、懐かしい声だった。





 その次の瞬間、欅潤は物凄い力で後ろへ引っ張られた。

 どうなったのか分からない間に、彼は仰向けに倒れていた。

「な…に——?」
 ぼんやりと呟く。

 緩慢な動作で半身を起こし、後ろを振り返ると、そこには幼馴染みがいた。

「…冬夜……。何で、ここに——?」

 欅潤は目を見張った。

「それはこっちのセリフだよ! こんなところで何やってんだよ!?」

 きつい口調で月影冬夜に言われた欅潤はしかしまだどこか呆然としている。

「自殺なんかするんじゃねぇよ! 潤に何があったのか知らねぇけどな、僕は友達が死ぬのを見ることなんて出来ねぇんだよ!!」
「…冬夜——」

 欅潤は俯いた月影冬夜の頬を光ったものが滑り落ちたのを見た。
 あれは、——涙。

「だから、自殺なんて、するなよ! ばか、ばか、潤のばか…!」

 あぁ、彼は。
 こんな自分のために泣いてくれている。
 こんな自分を、叱ってくれる。

 欅潤の頬にも、暖かいものが伝って落ちた。

「——冬夜、ありがとう…」

 欅潤は、にっこりと笑った。

「僕、もう自殺なんてしないよ」