ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.75 )
日時: 2012/07/22 11:49
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: ErSo6VVm)
参照: 夏休みって暇すぎるんです。宿題あるんですけどね。

No.36

 離れたところで二人を見守っていた黎は、足下で鈴の音が聞こえたのでそちらを見ると、黒猫が一匹、足に寄り添っていた。

「…あぁ、ムーンが月影冬夜をここに連れてきたのか——」

 その場にしゃがみ、黒猫の頭を撫でる。
 そして、黒猫を腕に抱いて立ち上がった。

「…じゃあ、おれたちは帰ろうか」

 あの様子なら、もう自殺なんて、しないだろうから。

 二人に気付かれないように忍び足で屋上から屋内へ入り、エレベーターに乗る。

 黎の腕に抱かれた黒猫がニャアと鳴いた。

「…どうした?」

 腕に抱いたまま黒猫の顔を覗き込むように見る。
 しかし黒猫は眠そうに目を細め、長い尻尾を振っただけだった。

「——友達、か」
 黎は黒猫を撫でながら、ぼんやりと呟いた。

 果たして、自分にはいるのだろうか。
 死ぬのを止めてくれる友達が。
 自分に、真剣に叱ってくれる友達が。

 ポーンと音がして、エレベーターのドアが開く。

 黎は黒猫を抱えたまま、ビルの外へ向かって歩き出す。
 入ってきたのと同じドアから外へ出ると、駐車場へ向かって歩く。
 駐車場には紺色の車が一台、停められている。

 近付くと、中には漆と上弓がいるのが分かった。
 上弓がこちらに向かって手を振っている。

 あぁ。
 死ぬのを止めてくれる友達はいないけど。
 真剣に叱ってくれる友達はいないけど。

 死ぬのを止めてくれる人がいる。
 真剣に叱ってくれる人がいる。
 本当に、大切な。

 家族のような存在の人が。