ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.76 )
日時: 2012/07/23 17:19
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: nOUiEPDW)
参照: 大学見学から無事帰ってきました。

No.37

 車に戻った漆と上弓はぼんやりと黎の帰りを待っていた。

「黎、遅いな…」
 運転席に座っている漆はポツリと呟いて、隣に座っている上弓をチラリと見た。

「…玄は何をやってんの?」
「パソコンですよ」
 その言葉通り、玄はノートパソコンをいじっている。

「………それはわかってるよ」
「だったら訊かないでくださいよ」

 漆は半眼になった。

「パソコンで何をやってんのか訊いてんの」
「それなら最初からそう言ってくださいよ」

 上弓はパソコンの画面を見詰めたまま答える。
「叢雲剣について、調べました」

 「調べました」ということは、既に調べ終わったということか。

 上弓はノートパソコンを閉じて、伸びをした。

「叢雲剣は、鳳音高校に通っていたんですって」
「…鳳音高校?」

 鳳音高校とは今回の自殺依頼者である欅潤が通っている学校だ。

「叢雲剣はそのときに欅潤を虐めてたんですって」
「…——」

 漆は目を見開いて上弓を見詰める。

「で、学校側はそれを知って叢雲剣を退学に。…けど、それを知らせたのは月影冬夜なんですって」

 だから叢雲剣は「…あいつの、せいで、お…おれは、退学になったんだよ…!」と言ったのだ。
 逆恨みも良いところか。

 それにしても、月影冬夜は学校は違うし、話もしなかったのに、よく欅潤が虐められていることを知ったものだ。
 それだけ欅潤のことを大切な友達だと思っているということか。

「ま、オレがちゃんとしつけといたので大丈夫ですよ!」

 歯を見せてニカッと笑う上弓を見て、漆は苦笑した。

「あ、黎、来ましたよ」
 上弓のその言葉通り、ビルから一つの人影が出てきた。

 彼は真っ直ぐにこちらへ歩いてくる。

 近付いてきたところで上弓が車の中から手を振ると、ムーンを両手で抱いている黎は憂いを帯びた瞳で、微かに笑っただけだった。

 黎が車の後ろへ回り、トランクを開けるとムーンは車に飛び乗った。
 黎はトランクにリュックサックを置くと、コートを脱いでそれも置いてから、後部座席へ乗り込んだ。

「——仕事は?」
 後ろを振り返って訊くと、黎はカツラを後ろへ放り投げると、右手の親指を突き出して答えた。
「無事、成功っす」

 それを見た漆は、こくりと頷いて、ニッと笑った。

 それから車のエンジンをかけて、駐車場から出ていく。

「…なら、お祝いしないとなぁ」
 車を走らせながら、漆がポツリと呟いた。

「やったぁ!」
 助手席に座った上弓が嬉しそうに声をあげる。
「なら、ピザ! ピザが食べたい!」
「えー、寿司ですって!」
 後部座席に座った黎が、身体を前へ乗り出す。
「黎、お前、シートベルトしろ」
「あー、漆さんが寿司買ってくれたら」
「はぁ!?」
「あ、ずるーい。ピザが良い!」

 騒ぐ二人を横目に見て、漆は溜め息をついた。

「あーもう、わかったから。両方だ、両方」
 漆の呆れたような声に、男二人は目を輝かす。
「うわぁ! 漆さん、太っ腹!」
「ありがとうございます!」

 ニコニコと笑う二人に、漆は「その代わり」と付け足した。
 
「先月分の給料無しな」

「…えぇぇぇっ!? そんなぁっ!!」
 口を大きく開く上弓に、漆は「はっはっはっ」と笑っただけだった。