ダーク・ファンタジー小説
- Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.95 )
- 日時: 2012/07/29 19:44
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: vVbLZcrS)
- 参照: 風邪をひきました。バカは風邪をひかないので、私はバカではない。
No.3
「帰ってきましたよー、漆さん」
顔に浮かんだ汗を拭いながら黎が言うと、漆は彼をチラリと見て、「おかえりー」と返事をした。
「…まぁた、だらしない格好して———」
半眼で呟く黎の目の前にいるのは。
あまり手入れのされていないと思われる長い黒髪を無造作にポニーテールに結び、半袖半ズボンの上下ジャージ姿で机の上に堂々と足を組み、事務椅子の背もたれに身体を完全に預け、アイスを食べている女性——漆。
「良いだろー? 私はこの暑さでどうにかなってしまいそうなんだ」
目にかかる前髪を鬱陶しそうに掻き上げた漆はじとっと黎を睨んだ。
「…だったら、クーラーつけてくださいよ」
渋面を作って言った黎に、漆も渋面を作って言う。
「だから、壊れてるんだって」
「…じゃ、扇風機」
「八月になったらな」
「もう八月ですよ!」
半ば呆れながら言うと、漆は「じゃ、つけよう」と早速置いてあった扇風機のスイッチを入れた。
「………って、漆さんしか風当たってないじゃないですかっ!」
暑さで少々苛立ちながら言うと、漆は少し驚いたように目を見張ったあと「ごめんごめん」と扇風機の首を振った。
「…で、仕事は何ですか?」
扇風機の風に靡く前髪をうざったそうに睨んだ黎が訊いた。
「…うん、まぁ、これ」
漆は机の上に置いてあったノートパソコンを黎に見せる。
「……『生きていた証拠が残らないように、存在ごと消してほしい』——?」
ノートパソコンの画面に映し出されているメールの一文を声に出した黎は軽く目を見張った。
「そんなの無理ですね」
さらりと言う黎を漆は半眼で睨む。
「そんな簡単に言いやがって…」
「だって、本当じゃないですか」
それから漆を見詰める。
「…で、何すれば良いですか?」
黎の問いに、漆は机の引き出しから一枚の紙を取り出しながら答えた。
「取り敢えず、この子の家、この聖音市だから探りを入れる」
差し出された紙には、聖音市の地図が白黒でプリントされていて、赤丸が一つ付けられている。
「…と言うわけで、今から行ってきて」