ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.123 )
日時: 2012/08/02 19:46
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: nOUiEPDW)
参照: 苦しい。お腹が痛い。

No.7

「調べ終わりましたよー」
 口を尖らせたまま、上弓が言った。

「うん、偉い偉い。で?」
 軽く誉めたあと、漆はチラリと上弓を見る。

「黒樹小枝、十四歳、中学三年生。弟が一人。両親は…死亡。現在、祖母と弟と、三人で暮らしています」
 上弓はパソコンに映し出された情報をたんたんと読み上げた。
 それを聴いた漆は考えるように腕組みをした。

「…両親はいないのか。自殺する動機は何だ?」
 最後の問いは、誰に向けられたものでもない。

「取り敢えず、もっと探りが必要だな」
 漆は「うん、そうだ」と一人で頷き、そして上弓を見て、言った。
「玄、ちょっと行ってこい」

 その上弓はというと、漆を見てポカンと口を開けたが、すぐに反論をした。
「何でオレなんすか!? こういうのは黎の仕事でしょ!!」
「煩い、黙れ。お前がデート行ったせいで情報少なかったんだ。だからお前が行ってこい」
 漆は早口にそう言うと、しっしっと手を払った。

「………漆さんも、酷いなぁ」
 不満げな表情をしながら、上弓は部屋を出た。

「…あ、情報掴めるまで帰ってこなくて良いから」
「………はーい」
 漆の付けたしに、上弓は実に不満ありげな声で返事をした。

 ガチャリ、とドアの閉まる音がして、上弓の足音が聞こえたが、それも遠ざかって軈て聞こえなくなった。
 部屋にセミの音だけが響きわたる。

「——黎」
 暫くの沈黙を漆が破った。

「何ですか?」
 黎はぼんやりと目の前にある机を見詰めたまま訊いた。

「……まだ、引きずってんのか?」
 漆の静かな問いに、黎は僅かに目を見張り、そして目を伏せた。

「漆さん。おれじゃなくて上弓さんを行かせた理由は、それですか?」
 自分の問いに答えなかった黎を横目でチラリと見て、それから漆は小さく笑った。

「上弓がデート行ったから、罰だよ」
「そうですか」

 セミが鳴いている。

 黎は「じゃ、帰ります」と言うとその場に立ち上がり、ドアの前まで行った。
 ドアを開けたところで、黎は不意に動きを止めた。

「さっきの質問の答えですけど——」

 顔だけを漆の方へ向けた。

「おれはもう、あのことは引きずってませんよ」

 それだけ言うと、黎は部屋を出ていった。

「…———」

 漆は上半身をソファの背もたれに預けた。

「……嘘だ」

 お前はまだ、あのことを引きずっている。