ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.124 )
日時: 2012/08/03 11:47
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: WIx7UXCq)
参照: 第二章に入ってから話が思い付かない。うへぇ。

No.8

 大通りから少し離れた公園は、車のエンジン音も一切聞こえない。
 聞こえる音は、風が木を、葉を、揺らす音。その木に止まったセミの大合唱。
 そして、澄んだ鈴の音。

「…鈴?」
 木が木を遮り、影になっていたブランコに腰掛けていた少女は、違和感を覚えて呟いた。

 キョロキョロと辺りを見回すと、公園の塀の上を一匹の黒猫が歩いていた。
 その黒猫の首輪に付けられた鈴が、歩く度にチリンチリンと可愛らしい音を鳴らす。

「…おいで」
 しばらく黒猫を見詰めていた少女は黒猫がこちらを見たので小さく声をかけた。

 ニャアと答えるように小さく鳴いた黒猫は、塀から飛び降り、見事に着地し、少女の元へと駆け寄った。

「よしよし、可愛いわね」

 黒猫を膝に乗せ、ゆっくりと頭を撫でてやる。すると、黒猫は気持ち良さそうに目を細めた。

「セミが、鳴いてるね」
 少女は黒猫を撫でながら呟いた。
「セミがたくさん鳴いてることを蝉時雨って言うんだよ。知ってた?」
 黒猫に訊くと、ニャアと鳴いた。

「…君は、賢いんだね」
 ゆっくりと頭を撫でる。

「猫、好きなの?」
「ひゃあ!?」

 突然の問いに、少女はびくりと肩を震わせた。

「あー、ごめん。そんなに驚かすつもりはなかった…」
 苦笑いしたその声の主は、髪を明るい茶色に染めた男性だった。
 その姿を認めた瞬間、少女はさっと表情を変えた。

「……誰ですか?」
 低い声で訊くと、その男性はニコリと笑った。

「オレ、その猫の飼い主の知り合い」
 男性はついと少女の膝に乗った黒猫を指差した。

「……あ」

 少女は黒猫を見詰め、そして膝から下ろした。地面へ下ろされた黒猫はニャアと鳴き、男性の足元へ寄っていった。
 男性はしゃがみこむと黒猫を撫で回し、それから少女を見た。

「…猫、好きなの?」
「…、は…い」

 少女は僅かに身体を強張らせた。

「この猫ね、ムーンって名前なの。月って意味」

 男性は黒猫を両手で持ち、立ち上がった。

「オレは上弓玄。君は?」
 ニコリと笑って訊いてくる男性。

「——黒樹…小枝、です…」
 遠慮がちに少女——黒樹小枝は言った。

「そっか、小枝ちゃん。可愛い名前だ」

 上弓と名乗った男性はヘラリと笑う。

「じゃ、オレはそろそろ帰るから。またね」

 ひらひらと手を振って去っていく上弓を黒樹小枝は無言で見詰めていた。