ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.134 )
日時: 2012/08/05 16:30
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: bOX/HSBq)
参照: 恋愛ものは苦手なのだorz

No.10

 名前を宇佐美〔うさみ〕茉莉という。
 二十歳で、聖音大学に通っている現役大学生。
 そして、あの上弓玄の“元”彼女なのだ。

「けど、茉莉。何で別れたの?」
 ソファに座らせ、冷えた麦茶を机の上に置くと漆は訊いた。

 茉莉はひざに乗せて強く握った両手を見詰めていた。

「…実は———」


   ーーー



 数時間前。
 待ち合わせ場所である駅前で上弓を待っていた茉莉。

 十分ほど遅れて上弓はやって来た。
 そして、やって来るなり「今日、仕事があるからデート中止」と言い出した。

 茉莉は、怒った。

「前から約束してたのに! 仕事ばっかり何よ!」
「仕方ないだろ…」
「もう良い! 玄となんか別れる!」
「………えぇ!?」
「さよなら!」



   ーーー



「今考えると、もう自分何してるんだろう、とか思って。ほんと酷いこと言っちゃって……」

 「はぁぁ」と盛大に溜め息をつく茉莉を見た漆は半眼になった。

 これはもしかしなくても、自分のせいではないか。玄に無理やり仕事押し付けたから。おぉ、申し訳無い。

 茉莉は右腕に着けたブレスレットを見詰めた。

「……本当わたし馬鹿ですね。後先考えずに、ちょっとイラーっときたからって…」
「…———」
「玄だって、仕事、忙しいのに……」

 実は、茉莉はこの自殺サイト『ゲートキーパー』について知っている数少ない人物なのだ。

「玄に電話かけてもつながらないし、わたしきっと嫌われたんですね…!」
「………えーと」

 漆は再び半眼になった。
 そんな漆を見た茉莉は、申し訳なさそうに立ち上がった。

「帰りますね。後で、電話してみようと思います」
 そう言う茉莉に、漆は笑いながら言う。
「あんな奴、放っとけ。そのうち、向こうから寄ってくるよ」
「………そうですか?」
 首を傾げる茉莉に、漆は頷く。

「だから、まぁ気にするな」

 すると、茉莉は微かに笑った。

「そうですね。ありがとうございました」
 ペコリと頭を下げる茉莉。

「…やっぱり、漆さんはわたしが困ったとき、いつも助けてくれますね」
「…そうか?」
「そうですよ。五年前も、そうでした」
 茉莉の言葉に、漆は懐かしそうに目を細めた。

「もう、五年も経ったのか…」
 惜しむように呟く漆に、茉莉はにっこりと笑う。

「そうですよ。時が過ぎるのは早いんですから」

 そして、「じゃ、今日はありがとうございました」ともう一度礼を言い、部屋を出ようとした。しかし、ドアノブに手をかけたところで、漆の方を振り向いた。

「わたしがここに来たこと、玄には言わないでくださいね!」
「任せとけ」

 茉莉はにっこり笑い、コーポ・テオティワカンをあとにした。