ダーク・ファンタジー小説
- Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.160 )
- 日時: 2012/08/13 18:23
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: Km711df.)
- 参照: この小説ってこんなんだっけ?
No.18
「はぁ…、漆さん、ひどいなぁ。どこに居るか分かんねぇし」
昼間の眩しい太陽とは違う、優しい光の太陽の陽射しを受けた雲は薄く黄色に染まっている。
「どこ行こうかなぁ」
と言っても、実は茉莉がどこに居るか、何となく予想は出来ている。恐らく、あそこに居るだろう。
上弓は、何て言おうか、などと考えながら足を進める。
数分歩き、聖音神社に着くとその横にある階段を上った。
階段の途中で墓地に出る。しかし、上弓はその横を素通りして、まだ上へ上る。
そして、木が生い茂っている中へ入る。そこは、空間があり、古くなったベンチが一つ置いてある。柵も取り付けられてあり、昔は展望台として使っていた、と聞いたことがあるような。
そこに、彼女が居た。
柵に凭れるようにして、ぼんやりと景色を眺めている彼女が。
「——茉莉」
名前を呼ぶと、彼女はふとこちらを向いた。
「……玄、何でここに——!?」
驚いたように目を丸くする茉莉。
「……茉莉を、探しに来たんだよ」
顔を赤らめながら言うと、茉莉は目を見張った。
「だからって、何でここが分かったの?」
「そんなの——」
上弓は目を伏せた。
「ここは、茉莉の大切な場所だから」
「……———」
「昔から、何かあった時はここに来てただろ!?」
茉莉は上弓を見詰めた。その目が潤んでいる。
「……って、うえぇぇぇっ!? な、泣くなよ!」
慌てて上弓が言うと、茉莉は涙を流しながらにこりと笑った。
「うん、ごめん。何か、嬉しくて——」
そんな茉莉を見詰めた上弓は、そっと彼女を抱き締めた。
「…! 何して——」
わたわたと慌てる茉莉の言葉を遮って、上弓は静かに言った。
「ごめんな。デート行けなくて」
茉莉はキョトンとしたあと、優しく微笑んだ。
「……仕方ないよ。仕事、忙しいんでしょ?」
「……うん」
こくりと頷く上弓を見て、茉莉は言った。
「なら、良いよ。だから、自殺止めてあげて?」
「…そう…だな」
上弓は茉莉を放し、彼女の顔をじっと見詰めた。
「……何?」
照れたように顔を赤くする茉莉。
「…いや、しばらく会ってなかったから、ちゃんと顔見とこうと」
「……もう」
茉莉が嬉しそうに笑う。
チラリと空を見ると、淡い水色になっていて、雲は微かに赤く染まっていた。
「綺麗だね」
にこりと、哀しそうに笑う茉莉。
「……茉莉の方がキレイだよ」
冗談混じりでそう言うと、「玄にそんなの似合わないよ」と笑い飛ばされた。
「そっか…」
何気無く下を見た。そこには墓地がある。そこにある、一つの人影。
腰まで届く、黒髪の少女。
「……黒樹小枝」
軽く目を見開いた上弓を見て、茉莉は首を傾げて訊いてくる。
「あの子が自殺志願者?」
「……あぁ」
黒樹小枝を見詰めたまま答えると、茉莉は上弓の手を引っ張った。
「……何——」
彼女の方を向いた上弓は目を見張った。
唇に、柔らかいものが重なる。
それは、すぐに離れていった。
「頑張れる、おまじない」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに舌を出して悪戯をした子供のように茉莉。
「だから、仕事、頑張ってきて」
その言葉に、上弓は顔を赤くして照れたように微笑み、そして頷いた。