ダーク・ファンタジー小説
- Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.171 )
- 日時: 2012/08/16 17:21
- 名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: jADmD8Xa)
- 参照: 時間軸は本編の一章と二章の狭間。夏休みに入ってない頃です。
「おい、十六夜黎」
「……………はい」
「お前、前も授業中に寝て、今日もまた寝てんのか」
「……………いえ」
「『いえ』ってお前、完全に寝てただろ!」
参照1800突破記念小説『生徒vs担任』
おれ十六夜黎は、ただいま職員室で担任の陽炎太から説教を受けてます。
しかし、職員室はクーラーがついていて涼しい——。
「十六夜、聴いてんのか?」
「はい、すっごくクーラー効いてますね」
「………何の話をしてるんだぁ!」
陽炎太は右手でバンと机を叩いた。机の上に置いてあったノートの山が音をたてて落ちた。
「お前はいつも何を考えてるんだ!」
「ノート拾わないんですか?」
「だったらお前が拾え!」
「………はい」
陽炎太は椅子に座ってるくせに、おれは立たされて話を聞かされているのだから、疲れる。
ノートを拾うフリをしてしゃがんで足を休ませる。
「とっととしろ」
低い声で陽炎太が言う。
「だから、手を動かせって。話、聴いてんのか?」
「はい、どすがすっごい効いてましたね」
「だからお前は…!」
本気で怒ってきたっぽいので、急いでノートを集める。というか、こんなことを生徒にさせる先生というのは、どうなんだ。
「集めましたよ」
ノートの束をドサッと陽炎太の机の上に置く。
「…それでだなぁ」
ノートの束を一瞥してから話を再開する陽炎太。
「お前には反省の色が全く見えない」
「…反省の色って、何色ですか?」
「………ふざけてんのか?」
「……………いえ」
割りと本気で訊いたのだが、どうやら不味かったようだ。
「取り敢えず、お前には反省文を書いてもらう」
そう言うと、机の引き出しから原稿用紙を取り出し、それをおれの前に突き出してきた。
「…はい」
それを受け取ったおれは、渋々ながらも頷く。
「ほら、そこで書け」
そう言って指差したのは、職員室の隅に設けられている質問コーナー。長机が一つと椅子が四つ、二つずつ向かい合うように置いてある。
普段はここで先生に授業で解らないところを教えてもらう場所だ。
そこの椅子に座り、あー足疲れたなぁ、と思っていると陽炎太が鉛筆を渡してきた。
「速く書け」
そんなことを言われても何を書けば良いんだよぉ。
渡された鉛筆をぼんやりと見る。
6Bの鉛筆。濃いな。
「おい、鉛筆を眺めてないでさっさと書け」
「はぁい」
「その気の抜けた返事は何だ!」
しかし、この質問コーナーはなぜ陽炎太の机から見えやすい位置にあるのだろう。ついたてで仕切られているというのに、出入口となっている隙間から丁度、陽炎太の机が見える。
最悪だ。陽炎太はずっとこちらを見張っている。
それにしても、クーラーが効いているというのに、陽炎太は汗をかいている。
暑苦しいなー、何であんなに汗かくんだよー、あーそうかー、太ってるからかー、などと考える。
「名前が太だからな」
鼻で笑うと、当の本人、陽炎太は、何か言ったか、と言いたそうにこちらを睨んでいる。
首をすくめて、視線を原稿用紙へやる。
そろそろ書かないとヤバい、と思うが、こういうものは何を書けば良いのだろう。全く思い浮かばない。
まー、取り敢えず題名だよなー、と思って、鉛筆を走らせる。
反省文、と汚い字がそこに書かれる。
うう、しかしおれは字が下手だなぁ、くそぉ、どうしてだよぉ。
なんてうちひしがれていると、陽炎太はいつの間にかおれの目の前に座っているではないか。
「……………あは」
苦笑いをして俯く。
あぁ、こんな近くに来んなよぉ。
泣きそうになりながら、反省文と書いた次の行に、十六夜黎、と書く。
やっぱ、字、下手だな。
何を書こうかと迷い、一度鉛筆を置くと、汗をかいた陽炎太がこちらを睨んできた。
「とっとと書け」
「…先生は汗をすごいかいてますね」
「………十六夜?」
低い、地を這うような声。
ヤバい、ヤバい。相当怒ってるぞ、これ。
「お前はさっきからからかっているのか!? どうなんだ! 答えろ、十六夜黎!!」
おいおい、そんなに怒鳴るなよ。職員室にいる人全員がこっちを見てるじゃないか。
しかも、おれの名前をフルネームで呼びやがって。これじゃここがついたてで見えなくても誰が怒られてるのか丸わかりじゃないか。
「からかってなんか、いませんよ」
「あはは」と乾いた笑いを浮かべると、陽炎太は顔を真っ赤にした。
「その笑いは何だ! 完全に嘗めてるな!」
「陽炎先生は汗だくだから、嘗めても美味しくなさそう——」
「何を言っているんだ!!」
おれの言葉を途中で遮って怒鳴る陽炎太。
せめて最後まで聴いてくれよ。
「とにかく! 反省文書き終わるまでは、帰らさないからな!!」
おれは溜め息を吐いて、仕方なく反省文を書き始めた。