ダーク・ファンタジー小説

Re: 自殺サイト『ゲートキーパー』 ( No.182 )
日時: 2012/08/20 21:51
名前: 羽月リリ ◆PaaSYgVvtw (ID: vVbLZcrS)
参照: 読書感想文、今終わった。

No.25

「草汰、夕飯よ」
「…うん」

 老人は、一人の名前しか呼ばない。
 黒樹草汰は椅子に座り、じっと祖母を見詰めた。そのあとに、横に座っている姉を。

「いただきます」

 夕飯を食べ始める。

「草汰、今日も遊びに行ってたね。今日も公園に?」
「そうだよ」
 黒樹草汰は問うてきた老人の顔を見ずに答えた。

「宿題はちゃんとやってる?」
「だいたい終わったよ」
「そう。流石、草汰ね」

 やはり、老人は黒樹草汰にしか話しかけない。それは、あの時からずっと同じだ。

 黒樹草汰は目を閉じた。

 黒樹草汰の両親は、彼が幼い頃に離婚してしまい、父親のことは覚えていない。それに、母親もその後すぐに死んでしまい、同じく覚えていない。
 つまり、両親との思い出が無いのだ。
 だから、せめて祖母と姉と、仲良く暮らしたいと思っている。なのに、祖母は姉を嫌っている。
 もう、普通の家族のように暮らせないのだろうか。

 その時、インターフォンの音が聞こえた。

「……あら、誰かしら?」

 老人が立ち上がり、玄関へと向かう。

 黒樹草汰は隣にいる黒樹小枝を見た。しかし、黒樹小枝は目を合わせようとしない。

「姉ちゃん——」
 小さく呟いた。

 ——本当に、自殺をしようとしているの?
   なんで?

 その時、物音が聞こえた。
 はっとそちらを見ると、祖母が真っ青な顔をして立っていて、その祖母の頭に拳銃を突き付けている人物がいた。

「……何を——」
 掠れた声しか出なかった。

 拳銃を持った人物は、黒いキャップを目深に被っていて、しかもサングラスをかけているから、顔は見えない。しかし、腰まで届く長い髪と体つきで女性だということが分かる。

「黒樹、小枝——」
 発された声は、やはり女性のものだった。
 拳銃の先を、黒樹小枝へと向ける。

 黒樹草汰は、黒樹小枝を見た。彼女は目を見開いていた。

「お前を殺しに来た」
 その女性が、僅かに口端を吊り上げた。