ダーク・ファンタジー小説
- Re: ママ、ずっと大好きだよ...。〜児童虐待を受けた子供たち〜 ( No.11 )
- 日時: 2014/11/23 20:27
- 名前: ENA (ID: qToThS8B)
第三章 炎の消える瞬間
3-1 作戦
あれから数日が経った。ママは帰ってこない。
僕はあれから水だけ飲んでどうにか生きているけど、もう手に力が入らない...。
莉音は、残っている食べ物を少しづつたべているからまだ動ける力は残っている。でも、その食料も今日の朝尽きた。
だから、どうにか莉音を生き延びさせる方法を考えなくちゃ...。
ん?僕はって?...僕は、もう無理だよ...。
ダメだとわかっている僕が食べるより、少しでも生きられる可能性がある莉音のことを考える方がいいと思った僕はボンヤリする頭で一生懸命考えた。
家の中で、力をあまり使わずにSOSが出せるもの...。まず電話。
これは最初に試してきたけど、受話器を持っても何にも言わないから×。
次は、家具やゴミの山を崩して大きな音を立てる。
これなら、一つゴミの袋を倒せばゴミの山は崩れるし、家具もタンスは無理だけど、テレビを落としたりは出来る。
これに決めた。
僕は莉音を安全なところに移した後、残り少ない力を振り絞って精一杯の音を立てた。
このマンションは少し大きな声を出すだけで隣接している部屋に聞こえるくらい壁が薄い。
だからきっと、きっと...!!!
お願い...!みんな、僕たちに気づいて...!
3-2 りんご
ゴミの山は思ったよりも大きな音を立てて崩れ、家具は、大きな音と大きな振動を立てて崩れた。
抵抗力がない僕はその振動で崩れたゴミの上に倒れ、両足をくじいたのか、立とうと思っても立てない。
「にーに、来て」
2mくらい先にいる莉音に呼ばれた。
「?」
2mしかないのに動けないなんて...。声が出ない僕はがんばって?の顔をした。
「りんご!」
莉音が笑顔でりんごの皮を見せてくれた。
僕はホッとした。と同時に、急に莉音が可哀想に見えてきた。
だって、ペラペラのリンゴの皮をリンゴと思っているし、僕が2歳の時は、ママが一緒にいてリンゴの皮じゃなくてボーロとかえびせんとか食べてもん。
そうそう、一番のお気に入りは、ミルクチョコの板チョコだったな...。
「いい?」
莉音が食べていいかを聞いてきた。
僕は、この後見つからない可能性も考えて、首を横に振って、僕が預かった。
食べたい...!
今すごいこう思った。でも、僕は必死に感情を押し殺した。
全ては、莉音のために...。
3-3 近づく最期
夜が明け、締め切ったカーテンの隙間から朝日が差し込んだ。
これがきっと僕の人生の中で最後の夜。
ボンヤリする意識の中で、僕はこう感じた。
昔から僕の感は良く当たる。
現に、ママがいなくなった時や、もっと前なら、莉音の性別も当てた。
出来ることなら、もっと生きていたい...!
こんなゴミの上で死ぬなんて嫌だ...!
でも、もう、どうにもならない...。
世の中、不幸すぎるよ...。
もっと、ママと居たかった。
もっと、莉音が大きくなっていくのを見たかった。
優しい頃のパパにも会いたい...。
今はどこのいるんだろう。パパとママ。
死なんか怖くないって自分に思い込ませていた。
でも、やっぱり怖いよ!
莉音のことも心配だし...。
いろんな感情が渦巻く中そんなことを考えていると、目の前が少しづつ霞んできた。
どんどん見えなくなっちゃうのかな...?
「莉音...」
かすれる声で僕は言った。
目が見えなくなるなら、見えなくなる最後の瞬間まで莉音を見ておきたかった。
莉音はすぐに近寄ってきて、昨日のリンゴの皮をあげると笑顔を見せてくれた。そこで僕のまぶたは閉じられた。
僕は頭の中で、この5年半を振り返ってみた。
たくさんおもちゃを買ってくれた、本当のパパの顔。
サッカーや自転車を教えてくれた、2番目のパパの顔。
本を読んだり、お昼寝しているママの顔。
生まれた時からさっきまでの笑っていた莉音の顔。
4歳の頃仲が良かった、智樹くんと明奈ちゃんの顔。
不思議と、思い出に残っている時のみんなの顔が順番に出てきた。
そして、最後に浮かんできたのは、5歳の誕生日のときのこと。
この日は、ケーキの代わりに、ママと莉音と僕の3人で板チョコを分けて食べた。普通の板チョコだったけど、すんごい美味しかった。
「莉音、がんばって生きてね...。ママ、ずっと、大好きだよ...。
もう一回、チョコレート食べたい...な...。」
僕の意識は途切れた...。