ダーク・ファンタジー小説

Re: ママ、ずっと大好きだよ...。〜児童虐待を受ける子供たち〜 ( No.19 )
日時: 2014/11/24 14:22
名前: ENA (ID: ez4qQ6a7)

第四章 第二の暮らし 〜天国と地上〜

4-1 玲音、亡くなる

///えー、次のニュースです。○○県△△市のアパートで昨日、5歳の男児の遺体と衰弱した1歳の女児が発見されました。県警は児童虐待とみて、21歳の母親の行方を追っています。///



玲音は、あのままゴミの上で5年6ヶ月という短すぎる生涯に幕を下ろした。
もう一度、家族でチョコレートを食べることを。
そして何より、華音が笑顔で帰宅することを願いながら。

そして、莉音は玲音に寄りかかってぐったりしているところを隣人の通報で駆けつけた児童相談所の職員に保護された。

通報した隣人は通報した時こう言った。
「生ゴミの腐ったような匂いとかがして、とても人に住めるような状態じゃない隣の家から大きな音がしたんです。その家、朝帰りの若い母親と、小さい子供が2人いて、少し前まで泣き声とかも聞こえてたんです。でも最近母親を見かけなくて、でも、子供はまだいると思うんです。」

そして、その数時間後。2人は発見された。
玲音は、亡くなってから3日程経っており、莉音は亡くなる寸前で保護され、現在は危険な状態を脱出した。

そう、玲音は願い通り莉音を救えたのだ。


病院ーーー

「莉音ちゃん、調子はどう〜?」

看護師の広岡が抱き上げる。

「ママ...にーに...」

莉音はまだ2歳。やっぱりママに甘えたい時期。
だから、少し元気になって泣ける体力がついた頃から華音と玲音を恋しがって泣くようになった。

「先生、莉音ちゃんって。元気になったら児童養護施設に入るんですよね?」

広岡が言う。

「ああ、引き取ってくれる親戚がいなければね。2歳なのに可哀想だよな。それに体の大きさは1歳半くらいだから乳児院に入れてあげてもいい位なのに...。」

「あ、あの、先生。私、莉音ちゃん引き取りたいんですけど...」

広岡は莉音の境遇に同情し、前から思っていた希望を担当医に話した。



が、しかし。広岡の願いは叶わなかった。



4-2 最後の別れ

玲音のお葬式は、発見から一週間後に執り行われた。
喪主は、華音の兄・将一。
将一は、玲音が亡くなったというニュースをみて、一切関わりはなかったが遠いところから駆けつけたのである。

お葬式には、玲音が幼稚園に通っていた時の先生や仲の良かった友達親子、近所に住む市民も参列した。

「玲音くん、なんで死んじゃったの...?」

涙のいっぱい溜まった目で明奈が言う。

「それは...神様が、迎えに来たからだよ...」

明奈の母が口ごもっていると、明奈の横に座っていた智樹が言った。
智樹の顔も涙でぐちゃぐちゃだ。

「神様が...?」

「うん...人は、神様が迎えに来た時に、死んじゃうんだって。」

「ふ〜ん...じゃあ、玲音君は、天国に行ったんだね...」

2人は子供なりに理解したようだ。

そして、棺の上から順に最後の別れをして行く。
玲音の顔は将一以外見る事は許されなかった。
だが、玲音の顔は微笑んでいるようにも見えるような安らかな顔だった。

最後は莉音と将一。

「にーに...バイバイ?」

まだ「死」と言うのを理解できない莉音は、まだすぐに会えると思っている。

「うん、ずっとバイバイだよ...?」

将一が教える。

「ずっと?」

「ずっと。長い長いねんねだよ...にーににバイバイ言って...」

将一に促され、莉音は玲音に別れを告げた。


永遠の別れを。


4-3 将一おじさん

玲音の遺骨と莉音を引き取ると名乗り出たのは、華音が大好きだった華音の兄・将一。

森宮 将一 (34)は華音の13歳年上の兄で、両親が離婚した時が中3の2学期だったため、移住先の高校を受験し受かったため父とともに移住。厳格だが、優しい父の元で立派な大人に育った。
そして、逮捕歴なども全くなく、きちんと働き自らの家庭も持っていることから、児相の職員に声をかけられた。


莉音、退院の日。
これまで何回も家族とともに病院に足を運び、お試しなどを経て、森宮家へ帰ることになった。

「パパ!」

莉音は将一の姿を見るなり笑顔で叫んだ。

「莉音!」

将一もそれに応えるように、笑顔でハグをする。

その姿は、もう親子そのものだった。

「よかったですね、莉音ちゃん。幸せになれる家族と一緒になれて」

広岡が担当医に言った。

「あぁ。でも、君でも幸せにできたと思うよ?」

「え.....!」


この2人は置いといて・・・。


車に揺られること3時間、莉音は将一の家に着いた。

「おかえり!莉音」

出迎えたのは、将一の妻・理香子(33)、長女・優香子(8)、次女・美香子(6)、長男・涼一(5)、次男・雄一(3)の5人。

「にーに!」

莉音は将一の腕からすり抜けると、涼一に駆け寄った。
莉音がそうなるのも無理がない。涼一は玲音そっくりだったから。

「・・・にーにじゃない...」

「莉音...」

将一と理香子が心配になったその時。

「莉音、にーにだよ!今日から、私と美香子はねーね、涼一と雄一はにーにだよ!わかった?」

優香子が莉音を抱き上げ、笑顔でそう言い、一人一人の名前を教えていった。

「うん!優香ねーね、遊ぼ!」

子供達はみんな大きな声でうん!といい、子供部屋に走って行った。


これなら、うまくやっていけそう。
将一と理香子はそう思った。


4-4 幸せな暮らし

今日は莉音の小学校の入学式。そして玲音の5回目の命日でもある。
玲音は、生きていたら今日から小学4年生。
1年生になった莉音は、虐待を受けていた面影は全くなく、ほっぺのぷっくりした可愛らしい女の子になった。

「パパ。お兄ちゃんって、どんな子だったの?」

手を合わせた後、莉音が将一に訊いた。
莉音には、もうほとんど玲音の記憶が残っていない。

「どんな子だったと思う?」

「うーん...。莉音を守ってくれた優しいお兄ちゃんって感じがする」

「そのとうり。今莉音が生きているのは、お兄ちゃんが守ってくれたからなんだよ。だから、お兄ちゃんにありがとうって毎日言おうね。」

「うん!お兄ちゃん、ありがとう」



この5年間楽しいこと、悲しいこと、いろんなことがあった。
華音が逮捕されたり、妹・弟ができたり。
時には、ほとんど顔を思い出せない華音と玲音が恋しくて泣くこともあった。
でも、いつでもどんなことがあっても、頑張れたのは温かい家族がいたから。
莉音はそう思った。



そして、莉音は時々赤ちゃん返りに似た状態になることがある。
それは児童虐待を受けた子に良くある現象で、新しい両親と乳児期からやり直そうとしようとするからだそうだ。
だから、その現象が起こるということは、莉音が将一たちと血が繋がっていないことに気づいているという証拠。
将一と理香子は、莉音が訊いてきても虐待などの詳しいことは伏せておくつもりだが、玲音が守ってくれたことは小さい時から、なんで本当の両親と暮らしていないかの大まかなことは、中学生になったら教えるつもりだ。




「莉音、今幸せ?」

将一が莉音に尋ねた。

「もちろん!ねえ、帰ったら、チョコレート食べよ!」

莉音の大好物は玲音と同じで、板チョコ。

「ああ、玲音お兄ちゃんも一緒にな」

「うん!」




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第一話はこれで完結です。
今まで読んでくださったみなさん、ありがとうございました!
ラストは、シリアスでなくライトになってしまいましたが...。
(私はハッピーエンドが好きなので...)

次も続けて第二話を書いていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。


by ENA