ダーク・ファンタジー小説
- Re: 嫌いだ【オリキャラ募集中】 ( No.51 )
- 日時: 2016/02/14 15:10
- 名前: riyal (ID: bUOIFFcu)
憎しみは転じて
………え?
え、ちょっと、何言ってるのこの人?
私たちで、莫大なお金を、どうやって?
そんな暇も体力も無いのにどうして…。
「…話はついたようね」
「あぁ」
男の後ろから無駄にスタイルのいい女が出てきた。
2人は知り合いなのか、砕けた調子で話す。
「そうとなれば撤収ね。良かったわ、返される目処が立って」
「損した分は…そうだな、倍返しで。ははっ、7200万返せよ、嬢ちゃんたち」
冗談じゃない…!
…っていうか!
「待って!借金って!?いつ!?何処で!?どうして!?」
「…はぁ?」
女に蔑む様な視線を送られても、私は続けた。
「うちはお金持ちの筈だよ!借金なんかつくらなくてもお金足りるでしょ!?どれだけ大きな買い物をしても大丈夫だって、それくらいお金持ちなんだぞって、お母さんもお父さんも言ってたのにっ、ねえ何かの間違いじゃないの!!」
有りっ丈の声で叫ぶも…男と女は、冷酷な事実を突き付けてきた。
「ああ、前までは、そうだったな」
「ま…前までは?」
「ええ…けれど、あなたたちのお父様お母様は大きな失敗をした」
「失敗?」
意味が、分からない。
「使い切っちまったのさ、金を」
「…?」
「正確に言うと、失くしてしまった、かしら」
「何で…」
「ギャンブルさ」
「ギャンブル?」
わけが、分からない。
「あの夫婦は賭け事が大好きだったわ。特に旦那の方はね」
「男の方はポーカー、女の方はブラックジャックが得意だった…かな」
「………」
「…それでな。ある時、ボーナスが入ったと言って、莫大すぎるくらいの金を賭けたんだよ。それも、夫婦揃って」
「3000万くらいだったかしらね…それが2人」
「それで、負けた…の?」
「「bingo」」
全然、分からない…。
「それで…」
「負けたから6000万くらい払わなきゃいけないだろ?×2人」
「合計1億円超ね」
「さすがに金持ちと言えど払えなかったってワケでさ」
「周りのお金持ちに金借りたのよ」
「…それが、未だに返せてない…?」
「「その通り」」
何で、何で…。
絶望的な気分に襲われたりとか、気がおかしくなったりとかじゃなく…ただただ、酷い戸惑いが全身を支配する。
強制的に知らされた両親の事実。
捨てられたのは、もしかして…いや絶対に、弟の病気を建前に本当は借金をなすりつけるため。
そして、少なからず兄や姉は知っていたのだろう。
よく両親と一緒にギャンブルに出かけていたから…。
「…じゃ、そういうことよ」
「楽しみにしてるぞ、嬢ちゃん坊っちゃん」
嘲笑や蔑みに満ちた顔で帰っていく人々。
反対に、取り残された、弟と私。
お金持ちとは、こんな生き物なのか。
平気で人を傷つけ、同情も情けもあったもんじゃない。
金を得るためなら、自分が得するためなら、どんな手段をも厭わない。
脆くて弱い子供にすら、平気で事実を突きつけて。
憎い。
両親も借金取りも、金持ち達の全てが憎い。
だったら…。
- Re: 嫌いだ【オリキャラ募集中】 ( No.52 )
- 日時: 2016/02/14 15:16
- 名前: riyal (ID: bUOIFFcu)
憎しみは転じて
だったら、そのお金持ちから、全てを奪ってやればいい。
…私の怪盗人生が始まったのは、11歳の時だった。
家族の顔は、どんなのだっけ。
完全に心を許し、苦楽を共にし、笑い合った筈の家族の顔は。
全て、裏切られましたけどね。
もう誰にも心を開かない、と私は決めた。
素性も性格も情も全て、誰にも見せない。
だから誰に対しても敬語を使おう、そう決めた。
それからというもの、敬語が染み付いて離れない。1度敬語を取ってみようと試みたけど、既に私は驚く程敬語に依存してしまっているらしい。どれだけ頑張っても取れなかった。
…あれから弟には会ってないな。
私は持ち前の身体能力と頭脳で淡々と盗みをこなし、借金を僅か10日ほどで返してしまった。さすがにここまで早いと思わなかったのか、7200万返しに行った時の素っ頓狂な声を上げた男と女の顔を覚えている。
そして、その後もずっと盗みを続けて…軽く一生遊んで暮らせるくらいの大金を金持ちから奪った。…否、奪い返した。
殺人もしなくはなかったけど…ごくごく、たまに。盗みに邪魔なら容赦なく。
そして、それほどの大金を全て手放し、私は家を出た。
…つまり、弟にお金を残して、去った。
窃盗、殺人、その他諸々全てやってしまっている自分が弟のそばにいたら、弟まであらぬ恨みを向けられる可能性がなきにしもあらず。
そんなのなら…生活に困らないお金を残して私は去った方がいい。
怪盗としての腕前みたいなものは、多分結構高いから…それに慣れたから、私はお金に困らないはずだ。盗めばいい。
それに、私が生きられなくなるくらいどうってことない。弟の方が大事だ。
ただ万が一にも、私が働いた盗みや殺しが咎められ、弟に危害が及ぶのなら、それは駄目だ。
だから…だから、私は、出てきた。
出て、もう、弟とは会わないと、決めた。
会ってしまったら、何か取り返しのつかない感情に支配されそうだったから。
他の家族の顔は何処かに行ったというのに、弟の顔ばかり脳裏にこれでもかというほど焼きついている。
弟の顔も声も匂いも雰囲気も全て、染み込んで離れてくれない。
そんな弟の顔を、もう見ようとはしなかった。
思い出すのは仕方なくても、家を出て、もうその顔を見ないと、決めた。
住んでいた街の金持ちはあらかた金を奪ったので、他の街へ。あちらへ、あちらへ、一つの街の全ての金持ちから金を奪っては、また次の街へ、間違っても弟のいる街の方向には行かないように。
…それで、ここの街へ、今はいる。
ルキちゃん、という殺人鬼さんと出逢ったんだ。
それから盗みの効率は格段に良くなった。
…その殺人鬼さんを追って、ここまで来たら、
「…君に出逢いました」