ダーク・ファンタジー小説

Re: 嫌いだ【オリキャラ募集中】 ( No.53 )
日時: 2016/02/14 15:19
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第14話 姉ちゃん

「………」
「私の中から、弟の全ては抜けてくれないんです。それは、私が忘れることを許してくれないんです。染み込んで、どうにも離れてくれない…弟を、私は1度も忘れたことはなかったです」

何故、ボクにそんな話を…。
しかも、家に帰るまでの時間すら惜しいかのように、こんな薄暗い洞窟の中で。

…ただ。
少し思い出したことは、昔の、とある笑顔-----
-----ハルレさんに酷似している、ちょっと寂しげな笑顔。

「だから、弟を見れば、すぐわかります。顔や声や体がどんなに変わっていようと、弟の本質は、雰囲気は、空気は、私の中に染み込んだものと同じですから。…だから」

ハルレさんは真っ直ぐボクを見据えて言った。

「サン…何故、今、会ってしまったんだろうね」

暖かい声。
いつか聞いた声と、全く同じ。
微笑む顔は、やっぱりほんの少し、寂しげで。

…姉ちゃん。

気がつけば、喋れない筈のボクの口が勝手に動いていた。

「何で…どうして…ずっと…探してたのに…!」
「…ごめんね」

完全に敬語は取れ、どこか距離を取るような口調も砕け、ハルレさんは姉ちゃんに戻っていた。
姉ちゃんの名前、ハルだったな…名前、ちょっと変えたのか。

『へぇ、良かったじゃんハルレ!弟と再会!』
「…はい、そうですね!盗人の私なんかがサンのそばにいちゃダメだと思ったけど…殺し屋のルキちゃんがいるんだからいてもいいのかなって、思いました」
『何それ〜』

ルキちゃんと姉ちゃんが笑い合う。
姉ちゃんとまさかの再会だった。
屈託無く笑う姉ちゃんとルキちゃん。

…笑うルキちゃんの顔が、何故か少し翳りがあるように見えた。

Re: 嫌いだ【オリキャラ募集中】 ( No.54 )
日時: 2016/02/14 15:22
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第15話 …だから?

『…で?如何するの?』
「え?」
『サンと一緒に住むの?』
「ぁ…」

ボクと、姉ちゃんで…今度はお金にも困らずに…。
一緒に、住めるというなら。

『あぁ、言っとくけど、あたしのことは全然気にしなくていいんだよ?ウキがいるしさ』
「…は…い」

姉ちゃんの表情が、曇天の空よりも曇る。
何をそんなに迷っているんだろう。

「…何で?」
「え?」
「どうして迷ってるの、姉ちゃん」

素直に疑問を吐露した。
ボクと一緒は嫌なのだろうか?

「え…と、私…サンとは、一緒に、そりゃ、住みたい」
「………」
「でも…ルキちゃんとも、一緒に、いたい」
「………」
「…ごめんなさい」

俯き加減に言う。
わからなくは…ない。
でも、ルキちゃんとボクなら、ボクを選んでくれるんじゃ、って思ったんだ。だって弟だし。

「ルキちゃんとなら、盗む効率が、いいんです」
「…だから?」
「!」

冷たく突っ撥ねてしまったボクに驚く姉ちゃん。
しかし怯まず、続ける。

「生活費が、足りなくならないかな、って…さすがに2人分は残していかなかったので心配なんです。お金が足りなくなるのなんて、もう嫌ですし」

いつの間にか姉ちゃんはハルレさんに戻っていた。
敬語になり、少し距離を取られる。

たまらなく、寂しかった。
今まで封印してきた感情が一気に溢れ出る。

「…んでだよっ!」
「!?」
「何で!?姉ちゃんはボクのことなんとも思ってないの!?お金とボクを天秤にかけたらお金を選ぶの!?ボクとは一緒にいてくれないの!?ねぇ何で何で何で!!」

精一杯叫ぶ。
大した音量にもならないけど、あらん限りに叫ぶ。
姉ちゃんに届くように。
あの時引き止められなかった、引き止めるどころか気づきさえしなかった、小さな背中を引き留めるために。

困惑する姉ちゃんを気にせず、尚も続ける。

「逢えたじゃん!5年も待って探して、やっと逢えたじゃん!なのにまた何処か行っちゃうの!?そばにはいてくれないの!?嫌だよ近くにいてよ!また一緒にお喋りしてご飯食べてっ、もう独りは嫌なんだよ!!だからっ、だから…!」
「…だから?」
「!!」

今度はボクが突っ撥ねられた。
ハルレさんはボクからルキちゃんに向き直り…言った。

Re: 嫌いだ【オリキャラ募集中】 ( No.55 )
日時: 2016/02/14 15:27
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第16話 crazy

「私は、ルキちゃんとも、サンとも、一緒にいたいです」
『うん』
「それから、もう、お金に困って、餓死すれすれの生活も、したくないです」
『…うん』
「そして、折角パートナーとして出逢えたルキちゃんと離れて、仕事がし辛くなるのも、嫌です」
『……うん』
「メリット、デメリット、天秤にかけて…私は」

姉ちゃん-----ハルレさんは、ルキちゃんとボクの両方を見据え、言い放った。

「ルキちゃんを選びます」

「-----」

それはつまり、仕事の効率とお金を選んだということだった。

意識が途切れそうになった。
捨てられた。
また…捨てられ、た。

ガクガクと身体が震える。
立っていられなくなりそうな足をなんとか踏ん張る。

…踏ん張る?
何で?
踏ん張る意味も理由もないんじゃないか?

瞬間、ガクリと膝を折り、その場に崩れ落ちる格好になった。

姉ちゃんなんて何処にもいないじゃないか。
いるのは、盗人に成り果てた、ハルレさん。
ルキちゃんと手を組み、お金の為に弟を捨てた、怪盗。

…何でだよ。
何でまた捨てられなきゃいけないんだ。
家族に捨てられ、残ってくれた姉にも捨てられ、その姉に再会できたと思ったら突き放されてまた捨てられて。

…希望が無いなら、まだ良かった。
でも、希望をちらつかせられて、いつも捨てられてきた。

お金持ちだったボクらの家、もし家族の失態に気づいて、必死に止めていたなら。
1人だけ残ってくれた姉ちゃんが出て行くのに気づいて、止めていたなら。
そして今、崩れ落ちることなく、意思を持って、姉ちゃんを説得する気力があったなら。

両膝をつくボクを見放す視線が突き刺さるみたいで、痛い。
痛くて痛くて…たまらない。

「あはは…は」
「さ、サン…?」
「あはは…あはは、あはははは!」

乾いた笑い声が洞窟に木霊する。
目から流れ落ちる透明な液体は、何て言うんだっけ?

今まで優しかった世界がボロボロになるみたいだった。

ハルレさんが洞窟の外へと出て行く。
そしてルキちゃんが慌ててその後を追い、無情にも2人が遠ざかっていく。
あぁ、やっぱりいなくなっちゃうのか。

世界は、ボクが望む方向が嫌いなのかな。
進んでほしい方へ進んでくれない。

ひんやりした洞窟の中に、たった独りぼっちで取り残され、虚無感が全身を支配し、感覚すらおかしくなりかけて、

そのまま、ボクは独り、笑い続けていたのだった。

Re: 嫌いだ【オリキャラ募集中】 ( No.56 )
日時: 2016/02/14 15:30
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第17話 ファルルちゃん

「………あは、は」

泣きすぎて涙が枯れちゃったようで、もう何も出てこなかった。
同時に声も枯れちゃったみたいだ。

ふらふらと、あてもなく、取り敢えず洞窟を出ようとする。
洞窟を出て、家に帰って、ランを呼ぼうかな…。

洞窟の外まで出て、辺りをふらふら彷徨う。
家に帰る方向とは違ったんだろうけど、気にかけられない。

不意に、ゴツっ、と誰かにぶつかった。

「…?」

反射的に顔を上げたところで、その人が誰かを知る。

「…あ、サン君?」

クラスメートのファルルちゃん。
本来ならここじゃなくて、違う国のお姫様な筈だけど、その身分を嫌って逃げてきた、って言ってたっけ。
泣き腫らしたのが一目瞭然なボクの目、それから顔を見て、心配してくれた。

「ど…どうしたの?」

相変わらず聞き心地の良い声でこちらの身を案じてくれる。
エンジェルボイス、とかって言ってたかな?
ファルルちゃんの家に代々伝わる伝説の声らしい。

その問い掛けに、頭を横に振る。
別に何でもないよと、下手くそな嘘をつく。

「…辛かったら言わなきゃダメだよ」

どうやったらこんなに優しい人になるのか、にっこりと笑いかけてくれる、ファルルちゃん。
尚更、ボクのことなんて言えない。

「これから何処行くの?」
「………」

あっち、と家の方向を指す。
ファルルちゃんは怪訝そうな顔をしつつも、「そっか」と言って逆方向を向いた。

「気をつけて帰ってね」

そのまま歩き出すファルルちゃん。
その後ろ姿を見送り、さっき指した方とは逆の方に向かってまたふらふらと彷徨い出す。

途端、手首を握る、色白な手。

ファルルちゃんは、こうなるのを見透かしていたかのように、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「何があったかは知らないけど…放っとけないよ」

そしてそのまま、ファルルちゃんに連れられて、歩き出した。

Re: 嫌いだ【オリキャラ募集中】 ( No.57 )
日時: 2016/02/14 15:31
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第18話 情けないけど

連れられてやって来たのは、ファルルちゃんの家。

「…っ」

ノートを数ページ使って事の顛末を簡単に説明した。
ファルルちゃんは、ずっと聞いていてくれた。

「そんな…お姉さんが…」

何やらぶつぶつと呟き、それから、ボクを真っ直ぐ見て話してくれる。

「私、助けるよ」

「………?」

「またあの時みたいに。少しの間、ここで暮らそう?」

その提案に。
迷いが、生じる。

「……………」
「ふふ、そんな顔しないで…全然迷惑なんかじゃないから。寧ろ、私独り暮らしだし…誰かがいると、楽しい」

そう言ってくれる女の子に。
肩の力が抜け、つい、甘えてしまうことになる。

「………」
「うん、そう、そんな風に笑ってよ」

また。
お世話になることを、選んだ。
情けないかな。
情けないよね。
でも…。

「遠慮しなくていいよ、だって親友でしょ?」

親友。
親友が、そう言ってくれるなら。
少しだけ、頼っても、いいだろうか。

ボクは頷いていた。

目の前の親友も、嬉しそうに頷いてくれた。

情けないなぁ、また助けられて、と誰かに言われた気がした。
情けない、か…。

ぎゅうぎゅうとボクを締め付けるその言葉から目を逸らし、ファルルちゃんの好意を見つめることにした。