ダーク・ファンタジー小説

Re: 嫌いだ【再開】 ( No.87 )
日時: 2016/01/31 23:11
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第38話 本性

「何で!?何でっ、どうしてっ!何でよどうしてよ!私が、私がいくら優しくしても、いくら助けてあげてもっ、決して聞けることのなかったその声がどうしてそんなに普通に出たの!?どうして私にはいつも聞かせてくれなかったの!?そいつは誰なの、その電話の向こうにいたのは誰なのよ!!」

ファルルちゃんの物凄い剣幕。
凄まじいまでに浴びせられる言葉の羅列、憎悪の気迫。
それでも、ルキちゃんとラン以外に口の利けないボクは、ファルルちゃんの変貌ぶりへの恐怖も相まって縮こまったまま動けない。話せない。

これは、誰なんだ。
この、物凄い形相で憤る人は、本当にあのファルルちゃん?
あの、優しくて、ボクを何度も助けてくれた、ボクの親友?

あり得ない。あり得ない…。

「誰よ。言いなさいよ。私とそいつのどこが違うの?何が違うっていうのよ。そいつ、私よりも優しいわけ?殺したとかなんとか言ってたよね?誰を?そんな奴とつるんでるの?ねぇサンくん、教えてよ」

静かに、しかし強烈な圧迫感や威圧感を伴って近づいてくるファルルちゃん…だった、人。

「あたしの何がいけないってのよ!その女とあたしとどっちがいいの!?あたし、あたしっ、あんなにあんたに良くしたじゃない!病気かなんかだと思って、喋れないのしょうがないなって、そう思ってたのに!違ったの!?違ったのね!あたしに心開いてるフリしてそうじゃなかったのね!それとも何、今までずっとアタシのこと騙してたわけ…?」

一気にまくし立てる。キンキンと金切り声を上げて確実に、ゆっくり、近づいてくる。
それは最早怒りと憎悪に満ちた醜悪な女だった。

「もういい」

そしてその女はポケットからナイフを取り出したーーー

Re: 嫌いだ【再開】 ( No.88 )
日時: 2016/02/12 22:58
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第39話 天使はいずれ

「………っ…!?」
「もういいよ。何のためにアタシ…私がサンくんの世話焼いたかわかってる?私だって、私だってサンくんのこと大好きで、心の拠り所だったんだよ」

ナイフをこちらに向けながら、淀みなくゆっくり歩いてくる。醜い女からファルルちゃんに戻り、天使のような笑顔を浮かべながら。

「サンくんに頼ってもらえて嬉しかった。元々姫の立場で誰からも敬われるばっかりで、碌に友達もいなかった…頼られるなんか論外。だから、心ごと私に預けてくれてるのが凄く嬉しかった」

笑みを絶やさずに少しずつ向かってくる。少しずつ、少しずつ、少しずつ…ボクはというと、ファルルちゃんが寄ってくる度に後ずさりしていった。

「でもね」

そう言われてファルルちゃんが足を止める。同時に、ボクはいつの間にか後ろに迫っていた壁にぶつかった。なんだかドラマとかでよくあるパターンだ…と、場違いな感想を抱く。

「サンくんは…いや、アンタは」

そこでまた一歩近づき…今度はファルルちゃんから醜い女に戻って話し続ける。

「アンタは、アタシを騙してた。そう、騙してたわ。ずっと。何年も前から…っ、アンタなんかに、アタシは騙されてたのよ。ねえ、どうして?どうしてなの?どうしてアタシを裏切ったの?どうしてアタシじゃダメなの?受話器の向こうにいたそいつと何が違うの?『ルキちゃん』って誰よ?そいつはどうしてアンタに名前を呼んでもらえるの?…疑問は尽きないわね」

そして、語りっ放しだったその口を止めて、言った。

「でも、もういいよ」

天使の笑顔で…。

「裏切った罪で、殺してあげる」

Re: 嫌いだ【Remake】 ( No.89 )
日時: 2016/02/18 15:40
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第40話 怖い

醜い女と化したファルルちゃんに追い詰められ、ボクは無意識に携帯を取り出していた。

メールを打っている時間なんかない、電話を掛けてすぐ切った。ルキちゃんなら多分これで気付いてくれる。

「携帯なんかいじって、どうしたの?サンくん」
「………」
「何か言ってよ、喋れるんでしょう?ねえ」

怖い。怖い。怖い。

純粋な死への恐怖、相手の醸し出す威圧感への恐怖、そしてそれから、誰かに裏切られる恐怖…。
それは、つい昨日も体験した、信頼していた人に裏切られる怖さだった。

早く来て、ルキちゃん。
信じられる人はもう、ルキちゃんしかいないから、ねえ、早く…!

「さよならだね、サンくん」

ゆっくりとしたモーションでファルルちゃんがナイフを振りかぶる。ただでさえゆっくりした動きがさらにスローモーションになって見えた。

走馬灯って、思い出せるような鮮烈な記憶がある人にしか見えないのかな。死にかけだというのに何も起こらない。

ああ、あと少しで刺さる…。

「させないよ」

キンッ。

ファルルちゃんのナイフが横から飛んできた別のナイフで弾かれる。

ルキちゃん!

ナイフが飛んできた方向を急いで振り返る。

が。

「ったく…危ないな」

ルキちゃんではない、誰かがいた。

Re: 嫌いだ【Remake】 ( No.90 )
日時: 2016/02/26 19:12
名前: riyal (ID: bUOIFFcu)

第41話 亜樹

黒いロングコートを羽織り、黒いブーツを履いた黒ずくめの後ろ姿しか見えないけど、ルキちゃんではなかった。そもそも服装が違うし、髪型も声も違う...この人は黒いポニーテールだ。

その黒ずくめさんはゆっくりこっちを振り返った。
思わずビクッとしてしまう。

「...無事みたいだね」

冷たく細められた目に見下ろされ、何を言われるのかと身構えた割には、優しい言葉をかけられた。

誰——と疑問に思ったと同時に、それを見抜いたかのように黒ずくめさんは続ける。

「わたし、亜樹。よろしくね」

アキ、と名乗ったその人はボクがぽかんとするのも構わず、なおも話す。

「ルキちゃんからメール入ってた。『サンのこと助けてあげて』って。…あんたか、ルキちゃんを変えたのは」

ボクが、ルキちゃんを変えた?
ルキちゃんといくら接しても、ルキちゃんのことを何もわからないくらいのボクが?

ルキちゃんのことを何も知らないと言ってもいいようなボクが、ルキちゃんの何を変えられるのだろう。

「大層なものだね...あんたみたいなのがどうやってルキちゃんをあんな風に...あんた、何者...」

ぶつぶつと言ってじりじり寄ってくるアキさん。

...の、後ろから迫る影。
ナイフを振りかぶってアキさんを捉えようとする、ファルルちゃん———

「させないよ」

キンッ。

またナイフが弾かれる。

「懲りないね。そんなに殺されたいか」

アキさんはボクににじり寄るのをやめてファルルちゃんと相対した。
ナイフを二度防がれ、眦を釣り上げるファルルちゃんがアキさん越しに見える。いつの間にか腰が抜けてしまっていたようで、ぺたんと座っていた。低い目線から見上げるかたちになる。

「邪魔しないでよ...アタシ、今からそいつを殺すの」
「それは無理だね。依頼を受けたら断るわけにいかない。とりわけ、ルキちゃんからの依頼はね」
「何なのよ、どいつもこいつもルキちゃんルキちゃん言って...!」

そしてファルルちゃんがまたナイフを振り上げ...ファルルちゃんとアキさんによる激しい打ち合いが始まった。