ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。 ( No.2 )
- 日時: 2015/06/10 18:31
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: OgnYhGeD)
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「で、お前はどうするんだ?」
堀先輩の声が胸の奥まで通って聞こえてくる。
そんな朗報聞きたくなかったよ……。口には出せない思いが、ぶわぁっと溢れた。
アスファルトが太陽に温められていく。じりじりと熱されていくみたいだ。
「私、は……」
母親が病気と聞いて、会いにいかない子供なんて、すごく親不孝だ。そんなこと分かっているつもりなのに「会いたい……」という気持ちが全くしない。
どうして……?
いつから私はこんな性格になってしまったのだろう……そう、歪んだ、ぐちゃぐちゃの心に。
あの日、堀先輩に最後に会った日。私は泣きながらお母さんに言った。もう迷惑かけないから、もう傍にいたいなんて言わないから……ちゃんと自立して家も出るから、だからどうか私を嫌いにならないでって。
でも結局は、私がお母さんのことを嫌いになっちゃったんだ。
酷い子供だ。親を、自分を生んでくれた母親を大切に思えないなんて。
「私は、会いにいかないと思います」
「どうして……!?」
「私は、きっとお母さんと会っても何にも変わらないと思うから。ただ、お母さんが傷つくだけだから……苦しむだけだから……っ」
自然と涙があふれる。
大嫌い、大嫌いなお母さん。
大好きで、大好きで、仕方がなかったお母さんが1年もすればこんな風になるなんて。化けの皮がはがれちゃったのかな。
私は……何てひどい娘なのだろうか。
「堀先輩、私は……痛いの、もう嫌みたいです」
「……うん。知ってる」
頭を撫でてくれる堀先輩に、心がギュッと締め付けられた。
優しさが胸にしみる。
堀先輩は相変わらずみたいだ。最初に会った時からそう。
自分のほうがボロボロのくせに、いつも私に優しくする。
自分のほうが苦しいくせに、私の心を暖めてくれる。おかしいことなんてわかってるはずなのに、彼はいつも笑いながら私にこう言うのだ。
「……なずなは強いよ、大丈夫。大丈夫だから、なずな……笑って」
ぐちゃぐちゃの笑顔で、いつも堀先輩は私に向かってそう言う。
その笑顔につられて私も泣いちゃって、本末転倒だったことが多かったなぁ。
今はそのことが懐かしく感じられる。
「なずな」
堀先輩が私の名前を呼んだ。
私が「何ですか」と相槌を打つと、彼は私をぎゅっと抱きしめて耳元で囁いた。
「……強がるなよ」
彼の言葉が何を指しているのか最初は分からなかったけれど、すぐに理解した。口元を緩めて笑ってみせると、堀先輩もにこりと笑ってくれた。
「強がってませんよ、これが私です」
「嘘つけ」
「嘘じゃないです……本当のことです。私をあんまり、甘く見ないでくださいね」
私は今ここにいるこの瞬間まで、どれくらいの涙を流してきたのだろうか。
何度も何度も私は、愛を求め強がってきた。
君の涙に小さな愛を。
私は、求める……。小さくてもいい、弱くてもいい。
そんなあなたの愛情を。