ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。 ( No.5 )
- 日時: 2015/02/13 23:07
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: jGEzFx76)
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「ねぇ、本屋行かない?」
大規模なショッピングセンターに来てまずいう言葉がこれか?少し疑問に思ったがにっこりと笑う比呂の言葉に、私と萌乃は顔を見合わせて小さく頷きあった。
比呂はどうやら欲しかった漫画の新刊が出ているというらしく、真っ先に本屋へ直行。
「……比呂はマンガ大好きだね」
「え。あぁ、そうだね」
まるで保護者みたいに比呂を遠目で見つめている萌乃に私は笑ってしまった。相槌を打ちながら、私は比呂の後姿を目で追った。
比呂は子供の用にはしゃいでいて、こちらのほうが恥ずかしい。
恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、萌乃が「やめてよぉ」と比呂のほうに駆け寄っていった。何とも微笑ましい光景だ。
「……見てみてっ、漫画の新刊見つけたよって、わぁ!こ、このマンガまで新刊がぁ、どう……どーしよぉ、萌乃!?」
「あきらめなさい」
サラッと毒づかれた比呂はしょんぼりとして、最初に手に持った漫画を持ち会計の場に急いだ。
「じゃぁ、買ってくるね」
私と萌乃は、比呂と一緒に会計の場までいった。
そこには数人の列ができていて、私たちはその三人目だ。待つの長いかなぁ、なんて思っていると隣のレジが開いて「どうぞこちらに」という声がかかった。振り向いてみると、なんだか見たことのあるような顔が見えた。
「……あれ、もしかしてなずなちゃん?」
私の名前が呼ばれて、ハッとした。見たことのある顔……。でも、分からない。誰だったっけ、と考えていると二人の女子たちが興味津々に私に「誰」と尋ねてくる。
さぁ、なんていうとこのレジの人に失礼だし……。
しばらく長い沈黙が流れていると、レジの男の人が
「えっと、すみません。じゃぁ、商品先にお会計しましょうか」
「あ、はいっ」
そう言いながら比呂から商品を受け取り、私に微笑みかけてくれた。私も笑わなければ、と口元を無理やり緩める。でもうまく笑えている気がしない。
「本当に俺のこと忘れちゃった?なずなちゃん」
「えっと、すみません……」
正直に謝ると、レジの男の人は「仕方ないよねー」と軽く受け流しながらうわごとのように何かをぶつぶつとつぶやいた。
レジの男の人は、まだ高校生か大学生くらいの若い男の人。顔は結構あっさりめで、身長はすらりと高い。180はあるだろうか……、少し見上げてしまう。
「俺だよ、君のお兄さんの紗樹の友達の……」
「……あぁ!?坂本さんっ」
「うんうん。そうそう、ようやく思い出してくれた」
レジの男の人こと坂本さんは比呂の買った本を袋に入れながら、「450円になります」と比呂に本の値段を伝えた。
比呂は最近買ったという可愛いお財布から千円札を出して、坂本さんからお釣りをもらった。
「坂本さん、あの……」
「なずなちゃんって、まだ「絵」続けてるの?」
坂本さんの質問に私は固まってしまった。
「……、え。なずなって絵とか描いてたの?」
「私も初耳だわ」
吃驚したのか、比呂と萌乃は私を見るなりそういった。
私は言葉の続きを言いたくなくて、黙り込んでしまう。そんな私を見て「じゃぁ、また」と小声で坂本さんは言うなり
「次の人—」
と、並んでいるお客を呼んだ。
私たちはほかのお客の邪魔にならないように、そっと別の場所に移動し、少し話をしようということになった。
そのついでに、近くに会ったクレープ屋でチョコバナナクレープを買った。チョコの味がやけに甘く感じられた。