ダーク・ファンタジー小説

Re: 君の涙に小さな愛を。【参照200感謝】 ( No.9 )
日時: 2015/06/05 14:17
名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: OgnYhGeD)

 








 Present03「暁の空に」





「じゃぁ、帰ろうか」


 萌乃の声に、はっとして私は顔をあげる。腕時計で時間を確認すると、もう四時が近い。高校生という立場ながらで考えると、もっと遊んでいてもいい時間帯なのかもしれないが、私たちもそれなりの進学校に通っているため、帰らないわけにはいかない。
 萌乃の場合はきっとこれから塾なのだ。私は「うん」と頷きゆっくりと立ち上がった。


 大型のショッピングセンターの出入り口は多い。私たちはできるだけここから近い出入り口を探すように歩き回った。


「……じゃぁ、私迎え来てるから」
「うん。萌乃……今日はありがとう」
「……こちらこそ」

 
 外に出ると、萌乃の近くに大きな車が止まった。黒い何か高級車みたいなやつだ。それを見るなり萌乃はそう言葉を残し、車に入っていった。

「……なずな」

 萌乃が車の窓を少し開き、私の名前を呼んだ。
朗らかな表情で彼女は私を見つめる。

「……あのね、もし、つらくなったりしたら私。……いつでも相談に乗るからね。だから頼って」


 彼女の言葉に私は少しためらってしまった。
上手くは言えないが、萌乃は私の嘘を多少なりとも見破っていたのかもしれない。
 相談に乗ってくれるか、そんな言葉聞いたのは何時ぶりだろう。萌乃の心配そうな表情に、私は無意識に笑ってしまった。


「ありがとう」


 いつか彼女にお礼ができるといいな。私は心の中でそう考えながら、車で通り過ぎてく彼女を見送った。萌乃の表情が少し悲しそうだったことに違和感を覚えながら。




***




「じゃぁ、私も帰るね。なずなは歩きなんでしょ?最近不審者も出てるって噂なんだから気を付けて帰ってね」


 そんな言葉を残しながら比呂は愛用の自転車に乗って帰っていった。そんな比呂を見送りながら一人になった私は息をつく。
 一人きりになって私は安心しているのだろうか。いや、そんなわけない。友達といるほうが絶対私にとっていいことだし、私も彼女たちと一緒にいる時間が楽しいはずなのだ。

 でも秘密を抱えたまま比呂や萌乃たちと付き合って、上手くいくなんてどうしても思えない。
だからと言って簡単に私の過去を話せるわけでもない。

 私が話をためらう理由。そんなの簡単だ、二人に嫌な思いをしてほしくない。ただそれだけだ。
 でも時々思う。本当の本当は、ただ自分が過去を話して傷つきたくないだけじゃないのかって。


「……何考えてるんだろう、私」


 浅はかな考えなのかもしれない。
でも私にとってはそれは大事なことなのだ。切っても切れない、私の……。





「なずな」


 また私を呼ぶ声。
暁の色に輝く夕陽で空が染まる。夏という季節ながら、セミの音は煩いし、耳障りでもある。そんな中で鮮明に聞こえる、私を呼ぶ聞き覚えのある声。


「堀先輩。どうしたんですか」

 そこには今朝久しぶりに再会した中学の先輩、堀先輩がたっていた。朝と少し服が変わっている。白いシャツが空の赤に染まって光る。
 堀先輩は私を見てからからと笑った。人の顔を見て笑うなんて失礼じゃないか、心の中でそう思いつつも私は何も言わなかった。


「……はは、いや偶然だよ。ちょっと散歩しようかなーって思ってたらお前見つけてさ」
「冗談はよしてください。先輩の家、ここから結構な距離ですよ」
「あ……ばれた?」
「ばれないと思っていた堀先輩の頭に苦笑です」


 堀先輩はまたカラカラと声を出して笑って「送っていく」と私の隣に並んだ。
 私はついでだと思い、ずっと聞きたかったことを聞いてみた。


「堀先輩って彼女できたんですか?」
「……ん。あー、うん。超かわいい子が出来たんですよ。羨ましいだろ、なずな」

 聞かなきゃよかった。私は堀先輩の優しそうな顔を見てそう思った。私は堀先輩にまた、嘘をつかせてしまったのだ。最低だ、私……。


「ごめんなさい」
「なんでなずなが謝るの?今のは嘘ついちゃった俺が悪い。なずなは早く俺に好きな子ができるといいなぁって思ってるんだろ?」
「……はい」
「大丈夫。それはもうとっくの昔からいるから」


 突然堀先輩は足を止めて、私のほうに振り返った。
彼はまるで壊れ物を見るように、私を見つめる。その表情はあの時とは違う。可哀想なものを見る目でも、憐れんだ目でもない。
 私はない勇気を振り絞って、先輩に声をかけた。


「……先輩、お願いがあるんですけど」





 私は勇気がありません。
だから少し、人に頼ってみようと思いました。
 それは間違ったことだったのでしょうか?