ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。【参照200感謝】 ( No.12 )
- 日時: 2015/02/24 15:44
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: l.IjPRNe)
Past01「桜の咲く季節に」
小さい時、母親と父親が離婚をした。
その時の私は本当に子どもで、よくそのことを覚えていない。
毎晩のように何か大きな声がしていたような気もするし、母親の泣く姿も見えていたような気もする。でもそんなのは当の昔の話すぎて、今では本当にぼんやりとした風にしか思い出せない。
母親は兄も引き取りたかったようだが、仕事上裁判に負け、私だけを引き取り実家に帰った。しばらくは祖父母の家で暮らし、私が小学生になると同時に近場にマンションを借りた。
「一緒に頑張ろうね」と優しい笑顔で笑ってくれたことを今でもはっきりと覚えている。
「お母さん、どう?似合ってるかな、この制服」
「うん、似合ってるわよ。なずな」
私がくるりとまわって見せると、セーラー服のスカートが軽やかにふわりと浮いた。真っ白なリボンを胸もとにつけ、私は小走りして姿見を見に行く。
似合ってるかな?リボン曲がってないかな?
ドクンドクンと心臓の音がする。私は緊張をしているのだろうか。
人差し指でグッと頬をあげてみると奇妙な笑顔の完成だ。「何をしてるの?」と母親は私を見るなり苦笑いをした。
綺麗なピンクのスーツに身をまとい、母親は何だか別人みたいな気がする。
「お母さん、綺麗だよ。もしかしたら二、三歳くらい若く見られるんじゃないの?」
「あら、そうかしら。それはそれでいいかもね」
私の言葉に彼女は口元を緩ませ、私の頭をふわっと撫でた。
もう子供じゃないのに……。そう言おうと思ってもこの「なでなで」が私にとっての幸せで、どう言うこともできない。
母親は靴箱から新品同然の黒いヒールを持ってきて、足に合わせていた。私も真っ白な靴を履いて玄関のドアを開ける。
晴天。
入学式にぴったりの青い空に白い雲。
胸が躍って仕方がない。私は勢いよく階段を降りるなり、咲いている桜の木のもとに駆け寄った。
「綺麗ね」
「そうだね」
そこに母親もやってきて、そういった。私はコクリと頷きながら、風に乗ってやってくる桜の花びらを掌にのせる。
手には一枚の淡いピンクの桜。両手でぎゅうっと桜を守るように握りしめる。
「お母さん、私……立派な中学生になれるかな?」
不安で胸がいっぱいだった。
それでもこの桜を見ると大丈夫な気がした。
自然と目が細まって、私は桜に背を向けた。
行ってきます。
心の中でそう呟いて。