ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。【参照200感謝】 ( No.13 )
- 日時: 2015/03/13 20:33
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: OgnYhGeD)
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私のこれから通う中学校は、小学校からの持ち上がりの生徒ばかり。だから、顔ぶれはみんな一緒。気さくに話すこともできるし、自己紹介は先生のためだけにするもの。「初めまして」という言葉に違和を感じることもあった。
入学式の日、私は新入生代表が長々と挨拶するのをボーっと見ていた。明らかに思ってもいないことを言っているのが分かる。ただ紙に書かれた言葉を淡々と読み、ぺこりとお辞儀をする。そう、何も面白くないのだ。
小学校の卒業式ぶりに会う友達。きゃぁきゃぁと盛り上がって楽しそうだ。確かに私にも友達がいたが、私はそんなにテンションが上がらなかった。
「……どうしたの、なずな」
「あ、へ。ううん、何もないよ。ただボーっとしてただけ」
教室の前で立ち止まる私を後ろからポンッ通してきた一人の少女。私の一番の親友の茅野詩織(カヤノ シオリ)だ。
きょとんとした表情で私を見下ろしてくる。入らないの?と聞かれ、私は部屋に足を踏み入れた。
教室は小学校の時とは、また違う感じだった。前には大きな黒板、教壇に、たくさんのロッカー。小学校とはまた違うんだ。そう思うと胸がドキドキしてきた。期待と不安、どちらの意味でドキドキしたのか分からなかったが、今はどちらでもいいと思う。
教室に入り、自分の席を探す。席は前から二番目だ。
「わぁ、なずな、席近いよ」
詩織に言われて私はもう一度座席表に目を落とす。「え」から「お」まではこのクラスには一人もいないらしく、「か」である栞が私の後ろの席になる。嬉しそうにぴょんおよん飛び跳ねる詩織を見ると、自然と私も笑っていた。
「入学式長かったよねー」
「そう、かな?」
椅子に座って一息。先生が来るまでの自由時間を楽しんでいた。急に詩織が話題を振ってきたので、驚いて私は返事が適当になってしまった。入学式、長いというより話を聞いていなかったから私にとっては短いものだったというほうが正しいかもしれない。
覚えているのは入退場の吹奏楽の演奏。学年別の担任紹介。それもうっすらと。
私は記憶することが昔から得意だったが、それは私にとっての必要なことだけという制限つきだった。自分に必要ない、そう割り切った時点でその記憶は私の元には残ってくれない。だから、吹奏楽部が吹いていた演奏のフレーズは今でも出てくるし、担任の名前も1年団は全員言える。本当、いらない特技だ。どうせなら、もっといい特技が欲しかった。
「お母さん来てた?」
「……うん、来てたよ」
お母さん。その単語を聞いて、私の口元は緩んだ。
あぁ、早く中学を卒業したいなぁ。そして、高校も卒業して就職したい。早くお母さんに親孝行したい。
まだそんなことを考えながら、私は毎日をそこそこ楽しく生きていた。
”おかあさん、だいすき”
小さいころからそう思い続けてきた。
好きじゃない感情が私にとっては皆無だったからだ。
私は楽しい日常を望んでいたわけじゃない、平和な日常を望んでいたわけでもない。そんな高望みをしていたわけではないのだ。
ただ私は涙を流すような苦しみが怖かっただけ。あなたに要らない存在と思われるのが怖かっただけなんだ。
「お前なんか、生まなきゃよかった」例えそう言われても。