ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。【参照300感謝】 ( No.15 )
- 日時: 2015/03/20 22:38
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: V1z6MgX2)
Past02「甘くない屋上」
小さいころから絵を描くことが好きだった。絵を描くことだけが好きだった。本を読むのも好きだし友達と話すのも好き、でもそういう好きというのとはまた違って……純粋に心から楽しいと思えるのは「絵を描くこと」だったのだ。
特に好きだったのは「屋上」で絵を描くこと。小学校の時は屋上の出入りはそんなに厳しくなかったから、よく屋上から外の景色を見るなりスケッチするようにしていた。青い空に白い雲、その下に広がる私の街の景色。普通に歩いているだけじゃわからない、上から見てこそ分かる風景を描くのが好きだった……。
「どこ行くの?なずな」
「……屋上行ってみる」
「えー、中学校の屋上なんて絶対閉まってるって!ていうか、もし開いていたとしても不良のたまり場だよ」
詩織がぶつぶつ文句を言うが、私は気にせず教室を出た。階段を一段一段登っていく。昼休みということで、皆はキャーキャーとはしゃぎまわり、走り回る。小学校の癖が抜けてないみたいだ。
屋上に入るドアの前に来て、私は一度立ち止まる。
びっくりすることに、カギは外されていた。
「……うわぁ、」
屋上に出ると、広い青空が私の目に映った。
足を一歩踏み出すごとに、私の胸がドクンドクンと脈打つ。
手に持ったスケッチブックを広げ、私はすぐにペンケースの中から鉛筆を取り出しペンを走らせた。
「なにやってるの?」
勢い余って、きゅうに絵を描きだしたものだから、そこに人がいたことに全く気付かなかった。声の聞こえた方を振り向くと、そこには一人の少年が立っている。少年の表情は、怒っているわけでも無く笑っているわけでもない、ただ不思議そうに私を見つめているだけだ。
いや、私ではない。私の書いた絵を、だ。
「……あ、の!ごめ、んなさい。ここ、来ちゃ駄目でした?」
「いや、別に。っていうか、なに?一年生」
「はい」
私のことを一年生と聞くから、彼はきっと私より先輩なのだろう。
私の絵から目を離さず、彼は私に問いかける。
「きれいな絵を描くね」
「…………え?」
少年が急に私の絵を褒めた。驚いて、私はスケッチブックを閉じた。
今描いている絵は、まだ軽くスケッチしたくらいだから綺麗と思われるはずがない、そう思って私はゆっくりともう一度スケッチブックを開ける。そうすると、私が描いていた絵の隣に、昔描いた小学校の屋上からの絵があったのに気付いた。これを綺麗といったのか……。
「あ、の」
本当は少し怖かった。
いきなり先輩と話すのは、誰でも恐れることだろう。でも、私は言うしかなかった。
「……けが、してるのですか?」
声が震えながらも、先輩の首元にある赤い傷跡に触れないことはできなかった。