ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。【参照300感謝】 ( No.16 )
- 日時: 2015/03/21 23:11
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: MsT83KPf)
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首元にある赤い切り傷。スーッと線を引いたみたいな、そんな傷痕。
私は口元を抑え、小さな声で「ごめんなさいっ」と謝った。触れてはいけない話題だったかもしれない、表情一つ変えない彼に私は戸惑って顔を伏せた。
「別に、ちょっと怪我しただけ」
「そう、なんですか……」
不良なのだろうか?最初のうちはそう思っていたが、すぐに違うと思った。澄んだ淡い藍色の瞳が、真剣に私の目を見ていた。こんなきれいな目をした人が、暴れまわって怪我をするわけがない。
屋上の風に私の髪が靡いた。ゆっくりと顔をあげると、深く息をつく先輩の顔が見えた。
「俺、堀。……堀桐斗、うちの学校の二年生」
「え、あ……私、なずなです。遠藤なずな、今日からこの学校の一年生です」
太陽が雲の隙間から光を漏らす。
堀先輩は、私の名前を聞くなり
「遠藤、なずな……か」
と、軽く私の名前を唱えるように呟いた。
私の胸は、ドクンっと音を立てた。
「なずな、って呼んでいいか?」
「……え、あぁ。もちろんです!」
正直すごく嬉しかった。最初は怖い人だと思っていたが、全然そうじゃない。私の絵を綺麗だと褒めてくれた、そんな心優しい人。堀先輩が耳に残る優しい声で、私の名を呼んだ。
小さなことで私は嬉しくなり、顔がほころぶ。
「なずな、また会おうぜ」
彼は嘘を言って、屋上から出ていった。
私は空をもう一度見て、スケッチブックを開ける。今度は鉛筆で書きなぐるように描いた。青い空に広がる、不思議な形の雲。
それは、いろいろな形に見えて……それは人それぞれだ。
色鉛筆を持て来ていなかったことに気づき、私は「はっ」と声をあげて立ち上がった。ペンケースの中に鉛筆を詰め込み、スケッチブックをわきに挟むなり私も屋上から出た。
どうして、忘れるかなぁ……私。
「お帰りぃ、なずな」
教室に帰ると、机にべたりと張り付く詩織の姿があった。
久しぶりの学校だったからなのか、詩織は眠たそうだ。あれだけ、ちゃんと生活リズムは崩さないように、といったのに……。絶対お昼寝とかしてたな、こいつ。私は浅いため息をついて席に着いた。
「ただいま」
今日は、このあと少し先生の話があって……でもすぐ帰れる。
みんなの顔が弾んでいる。隣からは「終わったら遊びに行こうね」という女子の高いトーンが聞こえた。
そんな中、私は鞄をごそごそといじり色鉛筆を探した。
「うそ、忘れた?」
色というモノはすぐ忘れてしまうから、できれば覚えているうちに……記憶のあるうちに塗っておきたかったのに。
溜息をついて、私はスケッチブックを鞄の中に片付けた。
入学式のお昼休み、私は嘘つきな先輩に出会った。