ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。【参照300感謝】 ( No.17 )
- 日時: 2015/06/09 20:26
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: OgnYhGeD)
Past03「恐怖のはじまり」
桜が散って、青い葉が茂るようになった。
相変らず私は、お昼休みになると屋上に向かっていた。そこには、当たり前のように堀先輩がいる。でもあの一番最初の出会いから、私たちは一切口をきいてなかった。彼からは話しかけられないし、私も恥ずかしがりやだから話しかけることができない。で、結局昼休みは沈黙が流れる。
私は毎日のように空の景色をスケッチするようになり、もうすぐこのスケッチブックも半分に差し掛かる。
美術部に入る、と宣言した割に私は美術部には入っていない。
正直言って部活はだらだらとした遊びの場に見えたからだ。特に作品展に向けて絵を描いたりするくらいで、私にとっての技術向上には向いていない場所だった、ただそれだけだ。
「もうすぐ、中間だねー」
五月の終わり、ちょうど遠足に行く前に私たちを待っているのは中間テストだ。
中学生になってからの二回目のテスト。一回目は何テストだったかはよく覚えていないけど、入学式の次の日にテストをしたような記憶がある。その時の点数と順位はよくて、お母さんにすごく喜ばれたんだったな。
「そうだね。詩織は勉強してる?」
「うん、一応?」
小さく頭を傾げしげるが、この前のテストの一位はこいつだ。詩織という少女は昔からそんなに頭が良さそうには見えないのに、すごいいい成績をとってくる。
私も勉強しないとなぁ、と思いながら私は一息ついた。
「あ、昼休みだ」
そういえば、今昼休みだった。
屋上に行きたいけれど、勉強しないといけないし……。
「まぁ、一日くらい行かなくてもいいよね」
ゆっくりと提出物のドリルなどを取り出して、私はやり始めた。
後ろでは、楽しそうに詩織がほかの女の子と話していたけれど、そんなのも気にしない。ただ、じーっと教科書を見てドリルの穴埋めをしていく。
チャイムが鳴って、私はペンを置いた。集中してたおかげか、もうドリルはだいぶ終わった。私は嬉しくて、口元が緩む。
そういえば、堀先輩は今日も屋上に行ってたんだろうか……?
***
「コン、クール……?」
いきなり美術の先生にその言葉を言われ、私は素っ頓狂な声をあげる。
「そう、貴女は美術の成績がいいから……次のコンクールのテーマに合いそうな絵も描けそうだし」
「次の、コンクール?」
「そう、「空」の絵よ。貴女、毎日屋上に行ってるんだって」
「なんで……」
先生に知られているとは思わなかった。
私が後ずさっていると、それに気づいたのか先生は小さく笑って
「怒らないわよ、桐斗もあなたがいても構わないと思っているんでしょ?それなら別に屋上に行こうと先生側としちゃ別に何の問題もないのよ」
「……はぁ」
桐斗、というのは堀先輩のことだろうか。
私は相槌を打とうとして、変な声を漏らしてしまった。
というか、正直なんて返せばいいか分からなかったんだ。
「桐斗はね、ちょっと問題を抱えた子なの。だから、できるだけの距離は保って仲良くしてあげてね」
「……え、あぁ、はい?」
「そして、コンクールなんだけどさっき言った通りテーマは「空」締め切りはごめんね、すごく速いんだけど今月中で」
「今月中!?」
今月中っていうのは、あと十日ほどなんですけど……。しかも、もうすぐテストももちろんありますし。え、でも……。
断りたいならチャンスはいまだ。そう頭では分かっているのに、言葉にはできなかった。なぜなら、私の意志は固かったからだ。コンクールに絵を出せるなんて、すごくいいチャンス。自分の実力が分かるチャンス、だから私の口は動かなかった。
「じゃぁ、よろしくね。えっと、遠藤さん」
「はいっ!!」
私は大きく頷いた。
この時私は選択を間違ってしまったのだ。だから、最悪なルートに進んでしまったのだ……。