ダーク・ファンタジー小説

Re: 君の涙に小さな愛を。【参照800感謝】 ( No.31 )
日時: 2015/05/31 14:21
名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: MsIbxfYV)













 Present05「夏という名のプロローグ」







 これはいったい何だろう……?
もやもやとしたゆらめき。もしかしたら、これはいわゆる「陽炎」というやつのなのだろうか?
 暑い、暑い。私は麦わら帽子をかぶり、白いワンピースに肌が焼けないように薄いカーディガンを羽織る。サンダルを靴箱から探し出しだし、足に合わせる。サンダルのヒールが少し高くて最初はふらついたけど、すぐに慣れて私は鞄を持ち外に出る。
 私の家の前には、一人の少年。見慣れた彼の姿があった……。



「ごめん、待った?」
「……ん、今来たところ」


 まるでどこかのカップルのような会話をして、私は彼のもとに駆け寄った。黒いТシャツにダメージジーンズ、今どきの若者の格好をしている堀先輩に、思わず私は大爆笑。


「おい、馬鹿にしてんだろ?俺これでも意外と学校ではモテんだぞ?」
「はははっ、嘘つく必要ないですよ?かっこつけてそんな服でくるとか思わなくて……はは、私、てっきり、ジャージでくるばかりと……ははっ」
「おい!!」



 堀先輩の不満そうな顔に、私はまた笑った。
「なずな、行くぞ」という堀先輩の言葉に私たちは足を進め始めた。
 夏休みがやってきて、早一週間が経過。
 私がバイトばっかで疲れたー、と堀先輩に相談したら「遊びに行くか」と、察して彼はそう言ってくれた。堀先輩も優しいというか、単純というか……だから彼女できないんだろうな、そんなことを思い私は心底彼のことを憐れんだ。でも、こうやって私が堀先輩のことを振り回してばっかだから、堀先輩は彼女できないのかも……。


「堀先輩、何かごめんね?」
「……は?」


 私が突然そう言ったために、堀先輩は頭にハテナを出した。
 


「お前さ、バイトばっかなんだって?大変だなー」
「堀先輩、思ってもないこと口に出さないでくれますかー。ひどく心にぐっさりきます」
「俺としてはなずなにそう真顔で言われる方が心に来るんだけどね!」



 バスで私たちは地元に向かう。ここらは本当に懐かしい、確か堀先輩はまだここで住んでいるんだっけ……。
 堀先輩の楽しそうな顔を見て、私は何だか複雑な気持ちになった。今日ここにきて、堀先輩は何をしたいのだろう?そんなことを考えてしまう。


「堀先輩、今日は何をするんですか?」


 見慣れた町、でも……あったはずの駄菓子屋がもうなくて、コンビニが増えている気がする。



「今日は、中学校に行こうと思ってる」



 懐かしいその場所の名を、彼が口にした瞬間、私の表情はあっという間に崩れてしまった。
 行きたくないなんて言えない、でも……なぜ彼がその場に行こうとしたのかが分からない。
 もしかしたら先輩は、私のこの気持ちについての整理をつけてほしいと願っていたのかもしれない。