ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。【参照900感謝】 ( No.32 )
- 日時: 2015/06/27 23:45
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: kXLxxwrM)
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堀先輩は、家を出てからも地元で家を借りて住んでいるという。どうしてなのか、それは堀先輩には聞けなかった。多分家を出る条件の中に、そういう項目があったのだろう。
わざわざ私の家まで来て家の近くまで帰ってくる、そんな二度手間をして私をここに連れてきたかった理由。
解せない。でも、堀先輩なりの理由があると信じ、私は足を進めた。
中学校の門を入るとき、私は心臓が破裂しそうだった。ロードワークをしている陸上部の人たちが私たちを不思議そうに見つめる。つい最近卒業したばっかりだから、知り合いも少なくは、ない。
職員玄関を使って私たちは中に入った。数人の生徒が私たちに気づき、中には声をかけてくれる子もいた。
職員室で先制に許可をもらって、私たちは学校を探索し始めた。堀先輩は一年ちょっとぶりらしく、とても懐かしそうに校舎を見つめる。その表情が、なんだか愛くるしかった。
「……先輩、懐かしいんですか?」
「そりゃ、な。一年ぶりだぞー。久しぶりに担任に会おうとか思ったら、もう離任しやがってるっていうしさ。寂しいもんだなー」
「へぇ」
私の三年の時の担任もどうやら別の学校に移ったみたいで、この時ばかりは先輩に同情してしまった。
夏休みの割に、生徒がたくさんいた。あれだろうか、大会が近い、とか。吹奏楽の音色が校舎に響き渡る。心地がよくて思わず私が聞き入ると、堀先輩は小さく微笑んだ。
「お前、相変わらず吹奏楽好きなんだな」
「……そう、ですか?」
「あー。昔から絵の話か音楽の話しかしなかった」
「そんな、誤解を招くことを!」
否定しながらも、そこまで強くは言えない自分に驚いた。
確かに音楽は好きだから、否定をするまではないのかもしれない。
廊下に貼られた可愛らしいポスター。行事予定やカレンダー、そんなものが目につく。
そういうところは高校とあんまり変わらない。
つい、ニヤニヤしてしまう。
「あ、そうだ。宮下に会いに行こうぜー」
「え、宮下先生?」
堀先輩が出した名前に私は、つい嫌な顔をしてしまった。
堀先輩は「なんでそんなに不服なんだ?」と聞いてきた。
まぁ、それはそうだ。宮下先生はいい人で中学の間は長い間お世話になった。いやそうな顔をするのは悪いか。
宮下先生、宮下香(ミヤシタ カオリ)は今年で二十六になる、若い先生。カウンセラーの先生で、私たちは特にお世話になった。
カウンセリング室に向かった私たちは、少しばかり中学の話題を、私たちが出会ったころの話をしながらドアノブを強く握った。
扉を開けると、そこには相変わらず、……数か月前と全く変わらない、阿呆面の宮下先生がうとうととコーヒー片手にソファーに座っていた。
「寝てるぞ、なずな」
「ですね、先生っていう自覚がないんでしょうか?」
私たちが先生の悪口を言っているとき、宮下先生はそれに気づいたのか(地獄耳)ゆっくりと目を覚まし、口を開いた。
「あれ、問題児二人組ではないか?」
誰が問題児だ!まず、私の口からはその言葉が飛び出していた。