ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。【参照900感謝】 ( No.34 )
- 日時: 2015/06/09 22:49
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: dY/cpaOc)
Past04「繰り返して、繰り返して」
あの日、テストで少しばかり悪い点を取った日。
お母さんに勢い良く叩かれたあの時から、私の歯車は少しづつ狂い始めた。いや、壊れてしまった……というのが正しいのかもしれない。
「……や、やめて」
ねぇ、知ってる?
子供って意外と大人が思っているより弱いんだよ。強がってお母さんの前では平気な顔もしたりするけど、本当はね、すっごく怖いの。
震える体。逃げまどいながら私は壁に張り付く。もう逃げ場がないと思い、私はぐっと目を瞑った。
そして勢いよく拳が降ってくる。頬にピリピリとした感触が走る。
そのまま逃げ場のない私はお母さんに足で蹴られ、お腹辺りや腕には黄色や黄緑の痣が出来る。けほけほ、とむせるとまたお母さんはぎろりと私を睨みつけ手を振り上げる。
これは一体いつからだろう……。人が肩より上に手をあげると、私はどうしようもなく体が震えた。
お母さんが怒ることはそんなに大したことではない。
家事をするのを少し忘れていた時に。少しばかり言い訳や反論をしたときに。学校のことでお金がいるという話をすると、それはとっても機嫌が悪い。母子家庭だからこれ以上お母さんに負担はかけたくないと分かっていても、これだけは私はどうしようもないから……。
他にも、仕事で疲れた拍子に。それが一番理不尽で、恐ろしい。仕事場では相当嫌なことも言われているらしく、お母さんは怒りをその場で溢れさせられないため家にそれを持って帰ってくる。私は極力うまく相槌を打つけれど、それも時間が経てば壊れてしまう。大声ですべての怒りをまき散らして、物を投げ始める。ガラスのコップが目の前で割られる、そしてこちらをぎろりと見つめる。私は鍵もかからない自分の部屋に逃げ込んで、とにかく願う。
今日は……生きていられますように。
この前の虐待の一部のせいで、私は腕が上がらなくなってしまった。しばらくたてば治ることを期待して、私は体育のバスケに臨む。でも、シュートが全然できなくて、私はチームのお荷物になっていた。
「どうしたの、大丈夫?なずな」
「へ、なんでもないよ」
腕が上がらないことは、ちょっと怪我をした。そういう風に先生や友達に隠して言った。それでも詩織は心配そうに体育の時に私に尋ねる。優しい性格だから、きっとこのことを言ったら悩むだろう。だからこのことは誰にも相談できない。
「私……いつ死ぬんだろう」
体育が終わって給食の時間。私は食欲がなくて一人屋上に入り浸っていた。ぽつりと空を見上げながら呟くと上から聞き覚えの声が降ってきた。
「死ぬって、どういうことだよ」
私はびくりと体を震わせた。
堀先輩は不思議そうに私を見つめて、ゆっくりと空を見上げた。
同じ景色を見ているはずなのに、堀先輩はすごく遠い。
堀先輩は何だか、変わっていた。
初めて会った時から、そう、ずっと。私のことを見透かされているようで、彼の傷痕も……私の身体中の痣も。
ぜんぶ、子供の小さな小さな叫び声だったんだ。