ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君の涙に小さな愛を。 ( No.40 )
- 日時: 2015/07/19 00:22
- 名前: 榛夛 ◆OCYCrZW7pg (ID: Lk0URTLS)
Past05「あの日の想いはいつか、君への気持ちと変わる」
体中が痛くて、声が出なくなるほどに苦しかった。
死にたい、そう思っては堀先輩のあの言葉を思い出す。「人は簡単には死ねない」ベランダに出ては、私は下を見おろし、溜息をつく。飛び降りたいと思う気持ちと同時に、やっぱり芽生えてくる気持ちは「死にたくない」という気持ちで。やっぱり人間は簡単には死ねなんだな、と自覚する。
リストカット、というやつがあるがそれこそ意味がないのを知っていた。それで死ねる確率なんか少ない。そんなことなら、踏切超えて、電車にひかれるほうが、もっと簡単に死ねる。あー、考えるだけばからしくなってきた。
屋上に向かう階段。そこで、堀先輩の背中が見えた。
もうすぐ夏休みになる、そうしたら堀先輩に会えなくなるのだろうか、そんなことを考えては私は複雑な気持ちになった。気にしないように、そう思って私は後ろから堀先輩に声をかける。
「堀先輩っ、こんにちは」
「……あ、なずなか。よう、元気してたか」
月曜日。堀先輩に会うのは久しぶりだ。
この土日に母に何をされたかなんて、死んでも言えないけれど、きっと彼は分かっているのだろう。そう自分自身で気づいていながらも、私はソレを言葉にできなかった。
相談してくれ、その言葉はきっと彼の同情だ。同情が嫌なわけではない、でも堀先輩の道場は少しばかり他人にされる同情とは違った。
すべてを悟っているかのような、まるで「自分も同じ」と言わんばかりの同情。
「元気でしたよー、堀先輩も元気そうで」
「あぁ、ってか暑くないか?お前こんな真夏なのに長袖って。何なの、肌が弱いとか?」
普段、この季節になったら全員が衣替えをして夏服になっている。でも、私は冬服のまま。一応先生の許可はとっているが、全生徒の中冬服で学校を歩き回るのは私だけ。目立つが仕方がない。
肌が弱い。先輩の言葉に私は首を横に振った。
「……痣が、痣があるんです。足もタイツはいてるでしょ?体中に結構な数痣があるの、しかも緑とか青とか……ちょっと気持ち悪い色だから、人に見せられない。夏服だったら、見えちゃうでしょ?本当はすっごく暑いけど、これだけは譲れないんです」
特に昨日は母の機嫌が悪かった。
昨日一日で、4,5個。気緑と黄色の、まるで腕が腐ってしまったかのような痣が出来た。母親は私が洗濯物を箪笥に片付けていなかったことにイラッとしたそうだ。だから、彼女は私が寝ている最中に私の身体を足で蹴りまくった。ごめんなさい、ごめんなさい……と、涙を流しながら謝っても結局何も変わらない。ただただ、痛みが体中に走る。
「そっか。大変だな、なずなは」
「そうですか?そんなこともないと思いますけど」
堀先輩は小さく笑って、私のことを心配してくれた。
さりげない優しさが、少し嬉しくて。心にじんわりとくる、この暖かさに胸がぎゅーっとくる。
「なぁ、なずな」
「…………はい?」
「夏休みさ、何か予定とかある?」
まさか、堀先輩に夏休み遊びに誘われるなんて思わなかったから、私は戸惑いながら「ない、ですけど」と、答え返した。
予定がない、というのは女子としていかがなものなのだろうか。まぁ、仕方ないだろうなんてひとりでに納得しながら私は、少し赤らんだ表情で言葉を紡ぐ先輩を見ながら微笑んだ。