ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.100 )
日時: 2021/04/25 16:59
名前: 利府(リフ) (ID: tpOE.cXI)

よお……5億年ぶりだな……
さいせん本編と繋がりがある話になりますので本編を読むと面白さが1厘ぐらい増えます。読まないとまったく面白くありません。地雷コンテンツです。




***


[録音再生]


録音始めます。

現在時刻午前2時15分。日付等詳細は省略。
証人保護の一環として匿名を希望します。
書き起こしの際もその形でファイリング願いたい為、万が一必要がある際はその点了承下さい。

重要さとしてはこちらで判りかねる内容です。面倒くさいですけど言っときますね。
どうせ隠し事が後からバレても面倒になるだけでしょうから、小さい話でも今のうちに洗いざらい喋っておきます。


ええッとね、数日ぶりに夢を見ました。
あの姉弟についての有意義な情報になるかもしれませんので、アンタがいつも言う“僅かな可能性”のために内容までお伝えしときます。

俺は椅子に座ってて、不思議の国のアリスみたいな、ああいう海外のティーパーティーの光景が眼前に広がってるんですね。周囲には花が咲いてて、植え込みが綺麗に整えられ、蝶が視界の端にちらついていました。
特に不可解な点があるとすれば、夢の中の時間が夜であったことでしょうか。目を落としたあたりに小さなランタンがあったので、手元と周囲2.5mぐらいをギリギリ視認することができました。
茶会のローテーブルに白いクロスが敷いてあって、ティーカップが置かれてるんですよ。俺の分と、俺の向かいにひとつ。椅子は全部で4脚あったように思いますが、席に着いているのは2人だけでした。

俺の向かいには女が座っていました。
あの女のところにもランタンが配置してあったので、顔の全貌とはいかずとも表情だけならばどことなく見える状態でした。
女の傍にシュガーポットのようなものもあったように思います。
若くて髪の長い女でしたが、件の童話か映画に出てきた少女アリスの見た目とは多分違っていましたね。うまく形容は出来ませんが、内側だけが老成している、まァそういう雰囲気を感じ取りました。
覚えているのはあの女の、ランタンの光で微かに輝く髪の色。それと、伏し目がちな青い瞳が印象に残っています。

ここはどこだ、と目の前の女に伺いを立ててみたところ、女は明瞭な発音で「私のセンイです」と言いました。
センイとやらが何かはわかりません。遷移、戦意、専意、繊維、どれだとは聞いてみたんですがね。
あなたにはセンイと聞こえるのですか、いい響きだ、と不明瞭な解答しか返ってきませんでした。

そのあと女は、深々と頭を下げてこう述べました。


「死に急がないでくれ。手遅れになってしまう」

「これ以上、血を流す必要は無い」

「これ以上、黄泉ヨモツに近づいてはならない」


「私たちを産んでくださった、あなた方にはそれ以上はない。
踏み込んではならない。お願いです」


聞き覚えのない声でしたが、“私たちを産んでくださった”ってあたりでアンタに伝えるべき情報ということは察しました。正体の解析や考察はそちらに委ねます。

で、俺が、

今更死を恐れてたまるか。
お前に従う義理はねェよ、俺が従う相手はたったひとりだ。

そう返したら。


──やはりあなたはあなたですね。奥方を大切に。

と、目を閉じて女は語りました。どことなく諦めた、もしくは祈るような表情だったかと思われます。ま、俺には人の感情の機微がよくわかんねェので、せめて参考程度に……。

そのまま数秒間、女の様子を窺っているうちに夢から醒めました。
そして現在に至ります。


個人的な感想ですが、疑いの情はわかない女でした。感情がこもっていたように感じます。
俺と彼女に、本当になんらかの思い入れがあったんでしょうねェ。

報告は以上です。
とりあえずあの姉弟にも聴取だけはそれとなくしておきますんで、把握だけどうぞお願いします。


あァ、そうそう。食堂のバリエーションの話ですけど、流石にレーション並べるのはやめといた方がいいと思いますよ。
祀葉マツリバはお嬢様家庭だったこともあってでしょうけど、話聞いただけでも結構げんなりしてましたからね。

回線切ります。


[再生終了]




***




「なァ、タケル。ミコトは見なかったか?」
「███」
「いやな、さっきお前に聞いたことをミコトにも聞いておこうと思って」
「ミコトなら、食堂で██████████」
「……う〜〜ん、マジかァ」
「███さん?」
「俺な、ミコトと口論して勝てたことがねェのよ……」
「よく分かります」
「はは、お前はよく笑うようになったな。やっぱガキってもんも接してみりゃァ可愛いな、あの栗毛の坊やも頑張ってるかね」
「██。██████……」
「お。一緒に行くか?」
「よければ、是非!」
「ったく。マセガキの口振りだな、誰に似たんだか」



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(泣く女、滲むインク、最後に残る男の声)