ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[ぼくさい短編・作者の呟き] ( No.12 )
日時: 2015/02/09 21:44
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

今日は、お父さんがいない。
自分をかわいがってくれるその手に、今日はふれられない。



そういえば。
すこし前、お父さんが教えてくれた。


『わるいこ』の仲間になってはいけないよ、と。


『わるいこ』は一人でいる人のところへやってきて、
その人のからだをうばってしまうらしい。
お父さんは『わるいこ』をこの世からなくすために、たまに出かけていく。

でもいっこうに『わるいこ』はなくせないんだって。
となりの家のやさしいおばさんも、学校のこわい先生も、みんながんばっているけど。


お父さんは『わるいこ』の話をするとき、つけくわえてこう言った。


『いいかい、おまえも大人になったら『わるいこ』をなくすために
 せいいっぱい尽くすんだよ。
 
 みんな、がんばっているんだから』





(…でも、一人はこわいなぁ)

『わるいこ』が来ないように、お父さんがナイフをわたしてくれた。
これを向ければ、『わるいこ』はにげてくれるかもしれないんだって。


ぎし、と足音がひびいた。

ゆっくり近付いてくる。
お父さんじゃない。


「はっ、はなれろ、わるいこ!あっちいけぇ!」

すがたは見えない。
かげも形もない。

でも、そこにいる。
人間じゃない。

こいつは、わたし達とはちがう!




————とん、と何かがからだに触れた。
見あげると、そこでやっとすがたが見える。

長いかみ。
どこか、やさしそう。

あたっていたのは、まっ白な手。


ふわ、と足がきえる。
わるいこに体がさらわれていく。
ぎゅ、とわるいこはわたしを抱きしめる。


りょう手がなくなって、ナイフもおちてきえる。

幽霊みたいなのに、からだがあったかい。
お父さんよりもあたたかい。

ずるい。

わるいこ。
わたしたちと違ってあったかい。


だいきらい。










わるいこ