ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[ぼくさい短編・作者の呟き] ( No.14 )
日時: 2015/02/24 21:11
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

文才に溢れた皆様の小説を読んでから知ったこと。


えっ…私の文章、短すぎ…?



というわけで長々と行きます。本編と大きく関わる話です。が、リンクはしません。








医者はカルテを眺めて、無機質な背もたれのいない丸椅子に腰掛けていた。
深夜3時、もう患者は来ないであろう時間帯。
だから彼は机に寄りかかり、まるで家で資料を整理するサラリーマンのように
リラックスした顔で文字を一つ一つ読み上げていた。

「405番の患者はもう完治に近いな…」

看護師がそろそろ気を利かせてミルクコーヒーを持ってきてくれる頃だろう、と彼が
考え始めたのが午前2時頃。
その時には、まだ廊下で薬を運ぶ滑車が進む音を聞いたはずなのだが。

今はどんな夜よりも静かだ。

医者は痺れを切らして、窓に付いているカーテンをぴっ、と横に引いた。
せめて月が見たい————と、脳が休息を求めたのだ、仕方がない。
彼はふん、と笑った。


「…どういうことだ?」

窓の外の世界が不可解だと医者が気付いたのは、カーテンを開けて3秒後。
さっきまで見えていた月がない。
空が真っ白で、まるで夏の入道雲が肥大化してしまったよう。

医者はそれを誰かに伝えたいという衝動に駆られ、診察室を出ようと扉に近づく。

その足は止まった。
否、止められた。


「診察、してくれないかしら」



化物が来た。
それは自分たち人間の姿とは何もかもが違っていて、中身も違和感で埋められている。

頭に不可解なものを二つ巻き、
胸元にはまぁ随分と深く切られた傷と生々しい縫い跡。


見たことがない衣装。



これは誰だ。
いや、誰と呼べる存在なのか。

人間なのか。


医者がそう自問自答をしている間、化物と称された女らしきものは、
患者が座るはずのもう一つの丸椅子に腰掛けた。
みし、と椅子が僅かに音を立てる。
医者は驚きから目を見開いた。


そしてただ女は淡々と、語りだす。

「この病院に寄りたかったんです。
 私の主が、お前にも使命があるだろう。とね、
 わがままを言ってきたものですから」


どうやら医者と化物の共通点は、同じ言語を話す事だけらしい。
それ以外はもうなにも噛み合わないと医者は悟ったのか、諦めて
デスクに手を伸ばした。

そのまま真新しい紙をカルテにはめて、彼はペンを取る。
ホラー映画の登場人物が考える事と同じ理屈。

相手の指示に従えば、こちらが殺されることは無い。

と、考えを変えたのだ。


「お名前は?」

「…ありがとう。レイと申します、あなた方と同じ、能力を持っている
者です」

「その頭に巻いてあるモノは?」

「包帯ですよ。そこまで共通点がないのですか、あなたと私の常識は」


医者は普段、患者に接するように問いかけていく。

そう、相手は化物だが言葉はキッチリ通じるのだ。



「君がこの奇妙な霧を生み出したのかい?」

「生み出したのではありません。元からあるのではないですか」

「じゃあ、ナースとは会ったか?」

「会いました。美人とは言えませんけどね」

「君には美人とブスの区別が出来るのか?」

「できませんね。
 そういえば、あなたのお友達にブスとだけ付き合うお嬢さんがいませんか?」

「何で知ってるんだ?」

「そのお嬢さんとお知り合いですから」



彼は化物を診察するのが楽しくなってきたのか、常識とは外れた質問までしだす。
そして、診察というより対話となった空気の中で。

医者はふと、弧を描くペンを止めた。



「気になることがあるんだ」

「その質問が最後ですか?」

「ああ、それさえ聞ければ」

「…それで、何でしょう?」


「君は自分が化物だって、分かっているのかが気になるんだ」




瞬間、カーテンが揺れた。

窓が溶けていく。
壁が、床が崩れていく。

さっきまで衣装に隠れていた化物の手が露出し、壁に触れていた。


「これと同じことを、あなたのお友達ができますか?」



そうだ、能力か。

でも、私が診察した者にこんな能力を持つものは…



「きみはだれなんだ?」

医者が問う。
その体は崩れていく。


「人です」












ばけものとにんげん