ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみは休戦中[ぼくさい短編・作者の呟き] ( No.20 )
- 日時: 2015/04/01 17:36
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
※今回ぼくさい関連じゃありません、むしろ恋愛ものです
「霧森」
そいつはいっつも教室のはじっこにいる、席替えをしたっていっつもつっ立ってる。
壁際にもたれかかって、無表情で無骨な体つき。
たまーに先生のつまらない授業に耳を傾けてるけど、休み時間には立ったまま
寝てることがある。
だけど別に、器用な寝方だなとか思ったことはない。
そいつは去年、交通事故で死んだ男らしい。
私のいる美術部に所属していたってことを聞いたけど、それもただの噂。
最近じゃ周りの女子にオカルト話の餌食にされてるから、何だかかわいそうな男だ。
放課後の部活に行きたくない時、そいつといつも二人きりになる。
私が自分自身と格闘してる間、「霧森彰介」は無表情のままこっちを見ている。
それに耐えられず、最初の頃は潔く部活に向かっていた。
でも今となっては彼は、美術で例えるなら背景ともいえる存在になってしまった。
むしろ、かちかちと進む時計の針の方が気になってしまう。
もう6時半、部活も終わり時。
帰り道で運動部の面倒臭い連中と会うこともないだろう。
カバンを肩に掛けようとしたその時、どこか違和感が生じた。
「…あれ、ストラップ」
いつも付けていたクマのストラップがなくなっていたのだ。
別に親が『交通安全』の願をかけていただけのもので、そんなに
必要性は無いモノだけど。
誰かのいたずらか、という考えも頭をよぎった、が。
考えるのが嫌になって来たので、結局どこかで落としたという結論で
自分を納得させてカバンを背負う。
踵を返すと、霧森がこちらをじっと見ていた。
いつも通りぴくりとも動かないまま視線を向けてきたので、
ちょっと戸惑ってしまう。
「じ、じゃあね。霧森…」
視線が嫌になって、私は初めて霧森に別れの挨拶をした。
その瞬間、霧森の目線が私のバッグに移る。
ストラップがあったはずの場所に。
恐ろしいほど瞳孔を見開いていた。
恐怖心を感じて、私は戸締りも消灯もせず
教室から逃げるように走った。
なんだ、何だ、何なんだあの幽霊は。
私が何をした!?
玄関から走って出て、踏切の近くで学校を見上げる。
私がいた教室に、電気が付いていなかった。
人影がない学校の姿に、私は怯えるしかできない。
電気を消せるのは霧森だけだ。
山の間から覗く夕焼けが、私の今の唯一の希望だった。
家に、帰らなくては。
カン カン カン カン カン カン カン カン
踏切の音に紛れて、近くで風を切る音が聞こえた。
電車が、線路の上にいる私を目がけて走ってくる。
刹那、どすんと体が押される音がした。
「…あれ?」
気が付けば、電車の走る音が遠い。
それに体は傷一つなく、踏切の外。
ふわ、と目の前で黒い学生服が揺れる。
「心配させるな。おまえは危なっかしい」
やさしい声で呼ばれた。
それは紛れもなく、あの男の声。
「霧森?」
「悪霊がついてる上に、おまえのある意味感心するほどの心の歪ませ方。
おまえの親の気持ちを無駄にするな。おまえの味方はいないのか」
霧森が仕方なさそうに、笑う。
「俺は霧森じゃない、霧森ショースケだ。
おまえが除霊をするまで、俺がおまえにかけられた願の代わりになってやる」
ショースケ。
やっぱり無骨な顔立ちからは、ちょっぴり可愛さと苦笑いがにじみ出ていた。
霧森彰介という男
(恋を教えてくれる霊!)
「霧森」は某ゲームの略称から
ちなみに「私」のモデルはリフ氏