ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.31 )
日時: 2015/05/04 23:53
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

やぁ霧森シリーズ。君の出番は4回目だね。(表記してなかったけどNo.27も含んでる)


















「杉原花。明日こそ社(やしろ)に行く予定は立てたか」

「はぁあ!?明日は学校ですぅ!」


三日月がカーテンの隙間から見える夜。
そんな時にとち狂った発言をしだすのはこいつしかいなくて、私は
幾度となくため息を吐く。


こいつは口癖のように「除霊」と繰り返すから、いつも「お前が悪霊だろ!」と
言いだしたくなる。
いや、一度言ったのだが。


その時の返答は「人助けをする悪霊がいるか」だったので、語学力がない私は
ぐうの音も出なかったし、それから言おう言おうと思っても脳がやってくれない。

その代わりに、一つ聞きたい事があった。





「ねぇ。霧森は、行きたい所はないの?」




「……」

珍しく霧森が苦い顔をして、言い淀んだ。

その表情が珍しくて、笑うところではないのに何故かぷぷぷと笑いがこぼれそうになる。
それを押さえていると、気まずいように霧森が呟いた。



「本当の最期に、病院にいる俺の友人に会いたい」


「病院んん!?
 本当にあんた死神じゃな…………

 え?」



最期?
…本当の?

その言語の意味が分からなくて、次の言葉が出なくなる。
しばらく無言が続いた後、先に口を開いたのは霧森だった。



「前に言ったな。
 俺の頬を触ろうとした“人間”は、お前だけだと」

「人間?…友達、……ま、まさか」




「昭和60年生まれ、河原町の小集落出身。
 名前は猪崎圭語。
 14歳の時に身寄りを無くし、15歳の時に火で自殺を図った」


淡々とした語り方に、私は逆に衝撃を感じていた。
スマホの翻訳のような声で、トラウマにもなる言葉の連発。



「…死んだの、ケイゴさん?」

「修復不能な火傷を体に負って、植物状態になっている」


「顔は?」

「そこまでじゃない。目は開けるけど見えないし、耳もただの飾りだ」




私は確かな決意を持って言った。


「明日、部活終わったらそこに行こう。最期に、とかなんて許さない」

「無理だ」


「何でよ!?」


霧森が食い気味に否定するものだから、ムキになって私は叫ぶ。

すると霧森は、悲しそうな眼をして冷たい口調で言った。



「あいつは生きた悪霊だ。お前が行ったらあっという間に食い殺される」

「な、なんで!」


「霊が“診えない”医者やその他諸々ならいい。だが、お前は視える。
 あいつは俺に対しての憎悪だけを持っているんだ、行くとしても俺一人でいい」




霧森が制止のモーションを手で示し、初めて微かに笑った。

「お前が除霊に行く日、俺はあいつに会いに行けばいい。
 そしてケイゴの怨念は消えて、お前は今後平和に生きられるだろう」



「じゃあ、あんたは…!?あんたはどうなるのよ!?」








今度は穏やかな顔をして、彼は言った。





「ケイゴの憎悪を俺が彼に殺されることで和らげる。
 その時に一緒に修羅に落ちて、永遠にそこで俺は殺され続ける。

 それで繋ぎ止める。俺の贖罪にもなるし、一石二鳥だろう」












猪崎圭語という悪霊
(罪を裁く刑は、死刑であるべきだろう?)