ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.33 )
- 日時: 2015/05/09 21:53
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
霧森と猪崎の話は何とか出来るかなって思ったけど
何かベーコンレタス風味になってしまったから自分で審議中
とりあえず自分の文は人前に出せるもんじゃないとつくづく思いますがね。
ピクスィブの小説家さんが羨ましいです。
短編の参照300突破記念だけど、中身は更新できてない中編小説の番外編。
彼女の墓はそこにある。
綺麗なエメラルドグリーンで染められた岬は、数十年前とは随分変わっているが。
元々彼女が愛したゲームや漫画の類では、どこかファンタジーじみた場所が
いくらでも描けたし、その人気さにすがって金を荒く使い、ほとんど自己満足の
世界の欠片にも満たないテーマパークを作る輩がいたが。
俺もその光景にはあほらしさを感じていたが、それでもゲーム通りの美しい浜辺だけは
良く見つけたもんだ、と現実を見ない連中と共に感動を感じていた。
そこもエメラルドグリーンの海だったのだ。
清掃業者の姿はなく、それでもゴミは一つたりとも砂の上には転がっていなかった。
隣で「ここが一番の見どころじゃないか?」と写真を撮る奇妙な風貌の男がいて、
俺はそこからそっと離れて溜め息を吐き出し、頭の中で皮肉を言っていく。
(そりゃあ海も、平面に描かれた夢と比べられたくはないだろうよ)
浜辺の端辺りに辿り着くと、肩を並べて今にも愛を囁きそうな男女がいた。
歳は大体20代くらい、人の目も考えずいちゃついている。
どうやらこの浜だけが目当てのようで、どちらも派手な風貌だった。
気持ち悪い。
俺はここにいる連中からしたら異端かもしれないが、こっちにとっては
そちらの方が異端の中の異端、それに値するのだ。
浜辺の一番端には、ここの外周に位置する道への階段がある。
そびえ立つ街灯をよく見ると、風に揺れるそこそこ美人なキャラが描かれた旗も見えた。
これで誰が喜ぶというのだろうか。
また皮肉をこめて苦く笑うと、今度は柵で囲まれた海辺が俺の先に見えてくる。
そしてそこの柵に人の目を気にせず座っているのは、俺のよく知る彼女だった。
ひとつ間違えば落ちてしまいそうで、支えになるはずの手も今は自らの膝元に
軽く置いている。
「『何よりも美しいものなんて、人それぞれに分け与えられているのよ』」
彼女は俺にも覚えのある台詞を、ウミネコが舞う青空を見ながら呟いた。
長い黒髪が海に向かってゆらゆらと揺れて、赤色の瞳がゆっくりとこちらに向けられる。
どうやら俺の存在には気づいていたらしく、口元をほんの少し緩めていた。
「ヒロインのセリフ。エピソード17で出てきた、その後の展開を考えると泣けるのよ」
「はぁ?」
さっぱり分からない。
と、俺が続けて言うと、彼女は目を細めてこう返したのだ。
…
「お前は、この花が本当に好きなんだな」
今、目の前に広がるのはたくさんの彼岸花だった。
女が好むのは薔薇だとかと思ってたが、本来の彼女の好みは真っ赤な彼岸花。
岬を隠して、崖の上で優雅に咲いている。
前と比べて随分心地よくなった風がそれを助けるかのように、小さく吹いている。
「人類の威厳が絶えて、もう50年にもなるな」
偽りない緑がここの海に戻ったのは、今から30年前だが。
彼女がそれを望んでいたのかどうか、俺は知らないままだった。
あの時彼女はこう言った。
『あんたが見た海は、化学物質で染められてるの。この場所は、偽りよ』
彼女は頭が良かった。
だから俺が知らない事まで考えてるし、俺が知っている事を馬鹿らしいと考える。
人類がいなくなった途端、嘘は時の流れと共に消えていった。
動物園で愛されていた生き物も、檻を出て自由になれたのだ。
彼女は平たいだけの理想郷を愛したし、恨んだ。
人間にそんな事が出来るはずもない。どこまでいっても本当の自己犠牲を理解しない。
そして、彼女は愛を込めて、人に打撃を与えるような形で、華々しく死んだ。
「いい?アインシュタインもスラムの住人も、突き詰めていけば何の違いもないの」
「自分の幸せを欲しがるより、空想の幸せを人と共有するのが私は好きよ」
真実を愛したその墓石へ、
俺はたった一輪の花を捧げる。
それは彼岸花と比較すれば、あまり存在感を放たなかったけど。
それでもいい。
彼女は、永久に生きるこの愛の象徴を愛してくれるだろうか。
SHE
(彼岸にはアイビーゼラニウムがある)