ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.34 )
日時: 2015/05/18 16:48
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

パステルカラーのアートは、そのテーマパークでは神の産物と崇められていた。

キャラが描かれた風船がゆらりと頭上で揺れて、太陽を覆い隠すが如く
私の目線の先に居座り続けた。

煩わしい。鬱陶しい。


私は、現実に平面を呼び出すなんて欲望を具現化する事と同じくらい醜いと考えている。
こんな汚い世界で、ゲームを再現するなど不可能なのであると理解できていない
連中が多い理由。

「金儲け」

「愉悦」



それを「自己満足」と訂正してやりたい。

私もゲームファンの端くれとして、原画展を見るためにこの地に来たのだ。
それだけなのであって、私はここにもう興味はない。

カラフルなレンガより普通の土の方が美しいはずなのに、世迷い事に投資する連中は
後を絶たない。

それを後押しして、進む失敗に一喜一憂する奴らを見たくはない。


そんなロクでもない現実より、ゲームをやって過ごしとけばいいのだ。




「『…赤潮の方がましだわ』」

私はとうにその空間に飽きていた。
だからこれといった特徴もない手すりに腰掛けて、それをしっかりと掴む。
そのまま腰を曲げて、脚の関節を鉄に押しつけてからぶらりと上半身だけを
その海がある方向に向けた。


黒髪が重力に従ってふさりと落ちる。
浜辺からは私が変人に見えたのか、こちらを見て苦笑いをしている女二人がいた。


緑の海が見える。

綺麗だ。



「『明日、イルカが死ぬ』」

手すりのある歩道にいる者に聞こえるよう、小さくはない声で呟いた。

みな、ちらちらとこちらを見て、気味が悪いように早足で去っていく。
私はそれでも言い続ける。


「『これからは健やかに海で暮らせるといいね、あのクラゲも』」

「『海に不純物なんて必要ない!』」


これらはすべてゲームのセリフだ。
ゲームにあったエメラルド色の海を見て、登場人物が言うセリフ。


美しい海なんて、再現しようとすれば不純な海にしかならない。



あの海はきれいだった、と思う。
ゲーム機の性能もあったが、あればどれだけ美しいと思えるだろうと
考えるまでに引き込まれるグラフィックだった。

きらめいて、近付けば(関われないけど)魚がいて、透き通っていて、だけど緑で…



そしてまた一人が歩道を踏んだ時、私は身体を上げて言った。


「『何よりも美しいものなんて、人それぞれに分け与えられているのよ』」

「…はぁ?」



見知った少年は、そのあとに「さっぱり分からない」と続けた。

私の思う事を理解できない人間だとしても、彼はここにある不純物より
もっともっと綺麗だ。

疑わないから。




私が目を細めて囁く。

「あんたが見た海は、化学物質で染められているの。この場所は、偽りよ」


それでも少年はまだ納得がいかないらしく、さらに問おうとしてきた。


「あの海がか!?」

「そう」



じーっと見つめあう。
嫌なにおいが混ざった潮風を吸ってから、彼は諦めたように言った。


「…悲観的だなぁ、お前って」

「そう?」


「お前の目も彼岸花の色で綺麗なのに」


「それが?」



「…海よりも何よりも綺麗なんだよ。ゲームの人間みたいだ」


彼がそう言った時、私は首をかしげた。

何で彼がそんな事を言っても…



「ねぇハネ、今何で私は反論できなかったんだろ?知ったかぶりがゲームの事を語るのは
 嫌いだったのに…」


ぶふぉっ、と彼が吹きだした。

それから汗を一筋流し、咳をしながらこちらへ寄ってくる。



「イルカはゲームの中じゃ死なねぇだろ」













HE
(彼女が彼女になる殺し文句)


この話意味不過ぎてしぬ