ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.37 )
- 日時: 2015/05/27 23:42
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
「Eat Bullet.」
淡い日光の中で、彼女は静かに聖書を開く。
紙の端はぼろぼろになっていて、力を込めて触れると音と共に崩れ落ちる。
花弁にもなりえないほど細やかで、この光の中、至近距離でやっと目視できる小ささだった。
「You're uglier than an angel.」
例えるなら濁りゆく羽だった。
天使の背にあるはずのそれが、跡形もなく落ちて、存在を忘れられるのと同じである。
教会にしては洒落た石畳は、この砂漠の城特有の素材で作られる所謂砂岩。
だから小さな貝の欠片も混じるし、このように日光のもとでは輝く。
「He couldn't do otherwise.」
ドアがゆっくりと開く。
聖女のもとにやってくるのは、神父以外になかった。
彼女には祈り、彼には鎮魂歌を唄うことが神職者の現在の営みである。
聖女が不意に年配の神父を見た。
まつ毛が彼と共に来る風によって揺れる中、神父は困惑した表情でそれを見詰め返す。
それでも聖女はたじろがず、相手が口を開かないことを確認すると視線を戻した。
風でページが先に進んでいて、彼女は口の中でなにか文句を呟きながら細い指を動かす。
また、はらはらとページの端が落ちた。
「You were arrogant.」
ここで彼女の憐れむような祈りが隣のページへと移る。
「No————even now—still.」
神父はここで、やっと彼女の思惑を感じ取ったのである。
「そんなものは、神の考えに従ってはおらんと思っているのだが」
「Your dream came true.」
神父は体をびくりと震わせた。
今まで淡々と読み上げられていた、否、好き勝手の償いをしろと訴えていた声色が
自分を震え上がらせるほどにただ冷たく、鋼鉄のように重くのしかかってきたからだ。
相手はそれを自覚しているのか、少しだけ振り向いてみせる。
そのまま無表情で、次の句を機械の如く述べた。
「The same thing happened.」
その言葉を最後に、彼女は突然聖書をそっと閉じる。
それでもページの破片は僅かに飛び、撃ち落とされた鳥のようにひらりと落ちる。
今度は、陰に。
興味を無くしたかのように、聖女は礼拝台へと聖書を置いた。
そのまま振り返り、目の前にいる神父を冷たい瞳で見る。
宝石のような青と、ピアノ糸のように見える細いまつ毛。
それを捉えた神父は、無意識に唾をごくりと飲み込んで頭をぶんぶんと振る。
汚らわしい。惚れてなるものか。
聖書までも、神の教えまでも無下に扱ったこの女を。
神父が開き直ったかのように睨む。
聖女が、表情に怒りを滲ませた。
まるで馬鹿にするなと言うような少女の目を、思い切り見開いて。
かつ、こつ、かつ、と、足音が大きく響く。
神父はきょと、とした顔をして動かない。
そして、そのまま。
神父が我に返った時には、聖女との距離は目と鼻の先だった。
「…ひっ!」
聖女がにたりと笑う。
目だけは動かさず、傍の椅子へと手を伸ばした。
何をするのか。私は死ぬのか。
神父が目をつぶる。
「ひひっ」
だが、返って来たのはどこか楽しげで氷のような笑いだけだった。
目を開くと、聖女は今までの仏頂面に加え、フクロウが描かれた帽子を被っていた。
薄い色素の唇が動く。
「お前の悲願は彼岸に任せるべきだ。
地を這う覚悟で、あの女の感情と屈服をお前が喰らえ。
それは祈りであれ、憐れみであれ、悪意であれ。
不毛の大地はあの墓標だけでよい。
海が干上がる必要もなく、砂漠が食われる必要もない。
このグビアナの英雄の座が欲しいのであれば、天地も自己犠牲もお前の一部と思え」
唖然とする神父の横を通り過ぎて、聖女は聖水の香りと共に去っていく。
風が再び入り込み、聖書のページがめくれ上がる。
どのページにも文字がない事を確認した神父は、湧き上がる吐き気をこらえて
ロザリオを握りしめたのであった。
サンドネラ
(聖女は神殿の女神であったと聞く)
ドラ○エ9のストーリー捏造作
聖女=ヴァミトル、場所はグビアナの教会
神父が雨の島に祈りに行く理由を考えたかったんだよ!!(半ギレ)