ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.47 )
日時: 2015/07/05 16:18
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

もくようは雪である。

だから外に行きたい。
自分をだれも探しに来ることはないから、自分へむけられる勝手なそうぞうを聞かなくていい。
まいにち雪が降るとは限らないけど、自分はべんきょうを教えてもらったことがない。
だから、初めてみた雪がもくようの空から降っていると聞いてから、
自分の雪が降るのはもくようなのだ。
自分のあしあとが残るのは、もくようなのだ。


もくようの雪の日である。

初めて彼女が来た。
はじめて、自分にきつくお叱りをしてくれた。
日記をつけているけど、自分が代わりに書こうとしても怒られる。
理不尽だ、と訴えると、「それが私だから」と彼女は言った。
だけど、それの意味が分からなかった。
だから日記をうばった。

怒られたけど、たくさん彼女のことが分かった。
たくさんの言葉のいみが分かった。

これを、木曜というのだ。


初めて、木曜日に晴れた。
自分が喜んでいると、となりにいる彼女が笑っていた。
「木曜日の晴れなど飽きるほど見たぞ」と言う彼女に「なんで?」と自分は言った。
彼女はこう返した。
「いいか、あそこが日曜だ。その隣が月曜だ。その隣が火曜だ。その隣が水曜だ。
 その隣が木曜だ。その隣が金曜だ。その隣が土曜だ。そして、また戻って日曜だ」

時間の事を教えてもらった。
「今は22日だ」と言って、日記と思っていたメモの日付表を、とん、と彼女は指さす。

22のところは、木曜日だった。


水曜に、自分は小さな家から出た。
初めて会うおじさんと、いつもの彼女に連れられて。

おいしいものを食べて、「ほっぺが落ちそう!」と言ったら、隣にいた彼女が
目をぱちぱちとさせてくすくす笑った。

「難しい言葉を知っているんだな、シンザワサソリ。私は3の時に知ったぞ」

頭をなでられて、口に付いていたソースをナプキンで拭かれると、とても嬉しい気持ちになった。

「しんざわさそりって何だ?」
「お前の名前だよ。シンザワサソリ、今までもこれからもその名前で生きるんだ」

「つまらない。政府が決めるの、そんなめんどくさい事?政府なんてくたばれー」


冗談交じりに言うと、彼女は一瞬悲しい顔をしてから「そうだね」と言った。
この日、自分の性別がどちらともいえない事、彼女の事、自分の事を教えてもらった。

そして木曜に、あっしとイサキはパートナーになった。



よく晴れた日曜の日、イサキが地球儀を見せてきた。
彼女の白い指は球体をくるくると回し、ある一点を見つけると「見ろ」とばかりに押した。

「外国?」
「そうだ。明日飛行機に乗って、私たちの使命を果たしに行くんだ」

孤児院から出てもう1年経つくらいには、彼女の顔立ちはこれ以上ないほど美しくなっていた。
能力を得て、時たま見せる美しい瞳の動きは綺麗すぎてさらわれてしまうのではと思う。

それをじっと見ていると、イサキは疑わしそうにこちらを見て仏頂面で言った。

「何だ、不満か。シンザワサソリ。私はお前でないとうまく仕事が出来そうにない」
「…いや、あっしもそーだからね?不満もないよ、逆にあっしは仕事っつー物も知らないし」

逆に、テロしか思い浮かばない。とは、あっしは言えなかった。




豪雨の日、イサキが片目を失ったという噂が届いた。

義父はそれを聞いて「そうか」とだけ言ったが、あっしは怒りで目に涙が浮かんだ。
守れなかった。あれだけ長くすごしてきてたのに、あっしが彼女について行かなかったばかりに。

帰ってきたイサキはあっしに一礼し、「すまなかった」と申し訳なさそうに言った。
すまないのはこっちだ。あっしが言うべき事なのに、なんでイサキが言うんだ。馬鹿。
あっしはイサキを抱きしめてすすり泣いた。
イサキの表情は変わらなかった。黒い眼帯をつけた片目は、漆黒で包まれていた。




NYに行った流星群の日、イサキがテログループによるウイルスに侵された。
あっしはその知らせを一番に聞いてから、義父に連絡する気もなくした。

どうすれば、どうすればいいんだろうか?

また帰ってきたイサキを見て泣くか?
笑って大丈夫と言うか?
呆れて見捨てるか?

————俺の女を?


「…シンザワが、ただのテロリストの一家なら」

そうするべきだった。
そうしたのは、木曜日の事だった。





——次の日、金曜の朝刊に、
「テロリストがテログループの拠点を爆破」というニュースが載っていた。
あっしはそれを見ても何も感じず、テーブルにそれを置こうとしたが。

「…シンザワ、本当に、テロなんかに巻き込まれなくて、良かったよ」


その言葉にうん、と頷きながら、あっしは朝刊を片手で握り潰して捨てた。
こんなものをイサキに見せるわけにはいかないのだ。と、本能が叫んだからだ。

でも、あっしはテロが起こった場所の近くにいたと聞いたのに、その時の記憶がなかった。






何故か、その数ヵ月後に、あっしは追われる身になったと知った。
どうしてなのかは知らない。
ただ、身に覚えのないテロの罪をかぶせられた。
それだけだった。


覚えているのは、あの木曜は、あっしとイサキが出会って、10年後の事だということだけなのだ。









Stand By Me
(そばにいて、いとしき探偵)



———————————————————————————————————————

表現恥ずかしくて顔真っ赤にして書いた
イサキとシンザワコンビは本編でもうすぐ活躍しだすよー