ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.50 )
- 日時: 2015/07/18 00:32
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
※「このページでいくつか書いてる『霧森彰介という男』(No.20)のシリーズ、3作目です。
未読の方は先にNo.20、No.25、No.31を読むことをお勧めします。(No.27も一応シリーズに含まれてますが、No.31の補足なので読まなくても支障はないです)
新月を愛しながらあの場所でパレードが夜を貪っているのさ。
なんつって。
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杉原は、とてつもなく重い足取りで歩道を歩いていた。
彼女が今からやる仕事は、まぁ他愛ない日直というやつである。
しかし、霧森が「やれば終わるんだろう」と諭すと、彼女は激昂して彼の透けた体に
平手打ちを仕掛けようとして失敗し、寝室でしくしくと泣き出した。
見かねた霧森が面倒臭い事になったら助けてやる、という条件を出して学校に送りだしたが。
「…まじで霧森に殺してもらいたい」
さて、杉原が所属する1−4の話をしよう。
このクラスはダメ教師と、不登校だけはしない性悪不良の巣窟である。
とにかくキャリアは長いんだろうが流されやすい、そして変な部分で頑固な教師。
そして「俺って○○のこと嫌いなんだよねー」と本人の目の前で言う性悪不良。(だが策士だ)
頑固教師は、日直のやる仕事にほんの少し不備があるとサボりと認定し、
明日も日直を続行させる。
不良は自分たちが日直をするのを遅らせたいがために、その不備をでっちあげてでも
誰かに日直の仕事をなすりつけたい。
杉原が先日、初めて日直をやった日の事だ。
ペアを組んだ生徒がクラスでの不良筆頭で、実質杉原が仕事をすべてこなした。
帰りの会にて、杉原は満面の笑みで言った。
「今日の日直の仕事に不備はありませんでしたか?」
「ありました−−−!」
は。
何ですと、と杉原は困惑の表情を見せた。
なにしろ戸締りも完璧にやり、黒板も毎時間消した。
学級の報告もノートに書き、全部一人でバッチリやっていたのだ。
「何がいけないの!?…全部やったよ」
「顔が真剣じゃありませんでしたー。というわけで明日も杉原さんですよねー、先生」
はぁ!?
杉原は口をパクパクとさせて、話を振られた先生のいる方向を見た。
(さ、流石に先生そんな屁理屈認めませんよねー。顔なんて知るか。つか何?
日直って笑ったりしちゃいけないんですかね!?いやーないよねー!?)
「…そうですねぇ。じゃあもう仕方ないですね、杉原さん。明日も頑張りましょうか」
この教師の言葉と共に、杉原の中学校に対する愛情は砕け散ったのである。
(あの教師、ぜってぇ地獄落ちろ…)
トラウマを掘り返されたような面持ちで、睨むように杉原は進む。
(…綺麗なの空くらいだわー)
彼女の目の前ではおどろおどろしいサイケデリックカラーのピエロが火を吹いている。
(全部地獄に、…いや、むしろ私が地獄に落ちて現実逃避したい)
頭蓋が見え隠れする象がのらりくらりと歩き、地面に大穴を開けていく。
杉原はその象の瞳を見て、笑顔で手を振った。
何故か相手が笑っているような気がする。
その隣では気球からトランプのクイーンの柄に描かれているような富豪が飛び出し、落ちた。
その度にピエロからは「勝利を!革命を!」と熱気が沸き起こり、雄叫びを上げる。
キングは槍で突き刺されて、その意識はこの世にはなくなっているようだ。
杉原は感嘆の声を上げ、その方向へと歩いて行った。
紙吹雪が舞い、ラッパは溶けつつも音を上げ、魔女が髪を振り乱して飛びあがり、血を吐く。
玉乗りをしていた小人が玉に潰され、「大気圏へ向かう船」と書かれた風船に
「僕らに夢を、どうか!」と叫ぶアメーバたちがよろよろと寄って行っている。
杉原は上を見上げた。
そのパレードの中で、一つだけ異様に目立つビルがあったのだ。
気配が、何らかの気配が滲んでいる。
その屋上では、頭をリボンで結わえたドレスの女が、パレードを見下げて歌っていた。
「皆が踊るのは夜であり、パレードが光るのはアタシだけの夜。
舞えや踊れやもアタシもキミも干渉しない、やるべき事をやるのが人間らしさ。
サーカスを!一晩に限らずサーカスを!あぁそこにある夢を掴めば良い!さぁ試しに!
貴婦人はお菓子でも何でも食べて、王は反逆を求めても征服を目にしても変わらない!
夜が明けるまでの祭りだ!それなら誰であろうと否が応とも踊りて明かす!
まだ夜を!アタシに夢を!そこの可愛いお嬢さんにも、夢を!」
女に指を差された杉原は、足を止めずにキングの元へ向かって行く。
笑顔のままで、嬉々とした表情のままで。
とん。
あと一歩で、キングのいる神輿に手が届く。
そこで、遠くで鈍い音がした。
突如、濁流が杉原だけを避けてパレードを飲んだ。
杉原は悲鳴を上げてパレードを見つめ、流されていく神輿を目で追う。
ビルの上の女が唖然とした表情を浮かべ、濁流の流れる先を見た。
その一瞬の間を潜りぬけ、青い霊体が女の頬を蹴り飛ばす。
ばきりと鈍い音が鳴り、女はビルの下へとスローモーションで落下して行った。
そこで杉原がびくりと肩を震わせ、周囲を見回した。
が、少し戸惑った表情を見せた後に、「嫌だなぁ」と言ってまた歩き出した。
彼女の足は、歩道から中学校へと向かって行く。
——霊体の正体は、霧森だった。
濁流を流したまま、彼は女の胸ぐらをつかみ、表情を無くした顔をコンクリートに叩きつける。
「お前は何の悪霊だ、それだけ答えれば杉原花への干渉を除いて全てを許してやる」
「パレード…」
「とぼけるな」
霧森が低い声で囁いて、女の額を強かに殴る。
それでも互いの表情は歪まなかったが、少しの間を置いてから女の方が高らかに笑いだした。
「あははっははははははははははは」
「……」
霧森は殴る構えをやめ、女の心臓の部分に手を添えた。
すると女がそれを目で捉えられない程の速さで止め、濁流の下の地面から勢いよく起き上がる。
「アタシはパレードが見たかったのに。
アノ子の脳内であんな情景が見えていたから、それを現実に少し連れだしたの。
何でそれで怒るの?悪霊って何?アタシ、ちっちゃい女の子だから分からないよ。
パレーライ・マリア。
アタシ、アメリカで、パレードの備品が刺さって死んだの…」
Parade like Maria
(それは人の脳内の葬列が見えていたのよ、Dear girl)
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杉原花の日直のトラウマについては私の実録です。
今思えばいじめかな?(棒)