ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.52 )
日時: 2015/07/21 17:17
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

クラスで人気者だった君は、地味な僕と一緒に遊園地に行きたいと言った。

その言葉に他のみんなは「物好きになったなぁ」と言っていたけど、
君は「私は、物嫌いな皆は嫌い!」ときっぱりと発してから、周りの同級生の頬をぶった。
みんな反論も何もしなかったけど、僕は君が傷つけられたらどうしようと泣いた。

すると君は僕の頭まで叩いて、「弱虫って、あんたの事言うんだよ!ばぁか!」と
顔を真っ赤にして、ふらついている僕を引きずって僕の家まで運んで行った。


母さんに「またあの子にやられたみたいね」と笑われた。
だけど何故か僕の顔はほんの少しほころんでいたらしく、「変わってるわねぇ」と
母さんに困った顔をされた。
それでも特別気持ち悪い事をしたというわけではなかったらしく、
結局はその後の生活がどう変わるとかという事もなかった。



数年後、まわる観覧車を君と目にした。
君はあの時の事をまだ根に持っていたらしくて、返事を返してくれないから
ずっとうずうずしていたらしい。
風船を持って楽しそうにしていた君は、観覧車を見ると同時にさらに表情を輝かせた。

「乗ろう、3周くらい」

僕がそれを見てにっこりと笑いながら言うと、君は唖然とした表情をした。
そしてまた顔を真っ赤にして、「阿呆かあんたは」と囁いた。

そのあと彼女は観覧車をいたく気に入って、それなりの値打ちの観覧車の模型を
僕に買わせたのだが。


その日の夜、「初めてあの子に勝てたかもしれない」と母さんに話すと、
「明日は雨でも降るわね」と喜んだ様子で頭を撫でられた。
これが喜ぶべき事なのかは理解しがたいけど、何だかいろんな意味でいい日になったんだろう。

でも寝るとき、心臓の音が大きく響いてきて、気持ち悪くて台所に出た。

台所の鏡に映った僕の顔まで真っ赤になっていて、「熱だ!」と母さんに訴えたが、
平熱の表記のせいで僕は夜中に父さんの拳骨を喰らった。



僕と君は同じ高校に進んで、勉強を教えたり聞いたりの毎日が続いていた。

君は相変わらずで、ちょっと自分の立場が悪くなれば「馬鹿」「阿呆」で済ませる。
他人に対してもそうだったから、僕が欠席の日によく喧嘩をしたと愚痴っていた事もあった。


今日、君は僕を遊園地ではなく君本人の家に来るよう催促してきた。
家に着けば君の周りにいるはずの家族はおらず、料理をしている最中の君が
僕の心境を読んだのか、「今日はみんないないよ」とキッチンの向こうで言った。
その後運ばれてきたハンバーグは美味しかったけど、君は僕を泊まらせてやると言い出した。
それを断った僕はタクシー代だけ貰って、帰る事にした。

その日、君は一度も顔を赤らめなかった。
羞恥心か何かは知らないが、どうしてなのだろう。


違和感があって、なんだか帰りづらかった。




タクシーに乗り込んで君の家の窓際を見ると、影があった。

あの日に買った観覧車の模型がひとりでに回っていたのにぎょっとして、
目を開いてから窓の先を見てみると、回しているのは君の指だった。


模型が2周まわって、またもう1周しようとした時に、タクシーは走り出した。














まわれよまわれ思い出は 君には一日 我には一生
(あなたといられる時間を、有限だとか言わないで)