ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.56 )
- 日時: 2015/08/02 17:09
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
一日に三回更新するとか馬鹿か。すげぇな。
というわけで霧森シリーズ。
パレーライ・マリアの過去的な何か。
※ >>50を読破後にお読みください。
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ある科学者が、とある思考実験を行った。
「マリーの部屋」と名付けられたその内容は、実行することは考えにくいものである。
白と黒、所謂モノトーンで作られた部屋にマリーという少女が生まれた。
彼女は与えられた部屋の中で、白黒のテレビを見て育った。
つまり彼女は、色を生まれてからというもの知らない。
マリーにはもう一つ与えられているものがあった。
白黒だけで象られた、視覚の神経生理学についての本である。
彼女はそれを読み、知識を蓄えた。
人はこんな世界に飛び込む事を激しく嫌悪するのであろう。
だが、彼女がそれを享受する理由があるとするならば、いくつか生まれてくる。
彼女には退屈という感情自体がなかったのかもしれない。
色を見ずに育ちながらも、視覚については専門的な知識を持っている。
だが人間は、存在自体を知らないものを「知りたい」ということなどない。
マリーにとって色というものは、興味を持つどころか、自分の脳に入っていないのだから。
マリーはその考えを主張するように、何不自由なく育った。
必要がないのなら与える理由もない。マリーは与えられた知識に対しても
「これで十分」だとか、「もっと知りたい」とは考えなかった。
ただ、知るだけのことだった。
そんなマリーはある日、外の部屋へと飛び出した。
もちろん自分の意志ではなく、他の人間に連れられて。
マリーは色を見た。
他人から与えられたトマトの赤を見た。
マリーは、————
———深夜、霧森彰介は今朝出会った女と向き合っていた。
まだ杉原花と呼ばれた少女は眠っていないが、眠気に呑まれる直前だ。
かっくりかっくりと頭を揺らし、半開きの目でパソコンの前に座っている。
霧森は自分の姿と杉原の姿、そして女の姿を見比べた。
霧森は闇によく溶ける黒の学生服と、黒い革靴、白いスクールソックス、薄い青髪。
杉原は黄色い薄手のシャツに寝巻のピンク色のズボン、白い裸足、黒髪、黒い目。
マリアと名乗った女は、色とりどりの飾りが付いたドレスに、長い黒髪、頭部に白いリボン。
青い目だから、外国人であるのは確かだろうと霧森は断定して口を開く。
「パレーライ・マリアだったか。お前は日本語が話せるようだが、何故あんな事をした」
「…日本語なんて知らないわ。アタシ、喋っているのは英語のつもりなんだけど」
ロッキングチェアに縛られたマリアは、不貞腐れたかのように話している。
「幽霊同士は言語が分かるようにでもされているのかもしれないが」
「確かにそうかもね、アノ子にはアタシの歌の意味は理解できていない様子だった…」
「だからお前はパレードで誘ったのか」
「誘ったんじゃないわ。あれはアノ子の頭の中よ。アノ子が望んだパレード」
マリアが笑うと、霧森は苛立ちを隠せないのか自らの学生服を強く握った。
杉原の思考の否定をする事は、自分の悪霊を祓う力も否定する事だからである。
「…アタシはね、本当はパレードなんてなければよかったって思ってるの。
あの日、キングの衣装を着た役者が心臓発作で死んだ。
キングは槍の飾りを持っていて、親とはぐれたアタシはそれを見上げていたの。
その瞬間、腹に槍の先が刺さって、血が噴き出して、今となってはこんな姿…」
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続きます