ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.57 )
- 日時: 2015/08/05 15:54
- 名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)
↑の話は続きますとは言ったけどすぐに続くとは言っていない!!
私は伊達組にハマった次にバサラの某Let's Party氏(持ち主)にべたぼれしたのよ。
土方さんとかゾロとは違った良さがあるね。あ、実際はバカイザーが一推しだよ。
SS先輩も好きです。クズでも男らしいと思う。
というわけで今回は探偵コンビで。
シンザワさんの能力どこ行ったの…
※!!リア充注意!!※
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「イサキ」
見つけた黒い影へ、まずシンザワは呼び掛ける。
イサキが乗って来た飛行機はもう行きの便としてこの空港内から飛び立っていたが、
シンザワは彼女をずっと探しつつ、与える言葉を考えていたのだ。
イサキはシンザワの声に反応して僅かに振り返ったが、シンザワの目では
彼女の左の頬から上は確認する事は出来なかった。
イサキが「シンザワサソリ、どこをほっつき歩いていたんだ」と彼の元へ歩き出す。
この情景にいつもと変わった様子はない。
ただ彼女とすれ違った男性は知りもしないイサキの顔をちらりと覗きこみ、
憐れんだ表情をしてから搭乗口のある方向へ向かって行くのだ。
そしてそれに対してイサキは何も言う事もなく、ただ無表情のままシンザワを見た。
シンザワはいつになく静かに俯いたまま笑い、顔を上げてから苦い表情を見せる。
「イサキちゃん」
「なんだ」
「無事?」
「あぁ、この通り無事だよ」
イサキの黒い髪が、彼女の首を傾げる動きによって自らの頬からするりと剥がれる。
目は鈍く輝く宝石に近い色を持って、見えた顔の輪郭は旅立つ前より大人らしい。
シンザワと比べて、否、誰と比べても天才肌だった彼女の大人らしさは生まれつきだが。
生まれたときから教育が始まったようなもので、能力を持ったのも彼女が
人と大きく関わり続けてきたからだ。
「無事?」
「そう言っているよ」
シンザワはその能力を持った瞳を睨み、今度はにこりと笑う。
「最後にもう一回聞く、無事?」
「あぁ、無事…」
「それで質問に答えたとでも思ってんのかお前?」
怒りだけを伴った声と共に、イサキの前髪が勢いよくかき上げられる。
黒髪が舞い、落ちることなく掴まれたそれの下には黒い影があった。
シンザワの髪を掴む指に黒く細い線がまとわりつくが、それも気にせずに
その親指で影を持ち上げた。
呆気なくめくれ上がる目元の影は、黒い眼帯。
その真下に片方の目があると分かっているのなら、シンザワは何も言わなかっただろう。
その中身はからっぽだった。
ただ眼帯などなくても、黒一色にそこが染まっている事には変わりはないのだ。
「…えぐられた目は、所有者の私に返却せずに科学者に解剖されると聞いた。
何せ私を見る目は私の目か体に向いていたんでね、いつかはこうなると分かっていたよ。
格好の餌になる。これで何人の違法実験者をお前の言う「ブタバコ」に入れられるか」
久々に勝負でもして、洋菓子1か月分でも賭けてみるか?
そう告げるとイサキは何の悩みもないかの如く清々しい顔で微笑み、眼帯に触れている
シンザワの指をするりと外す。
イサキは微笑んだままだが、シンザワは青ざめた表情のままでいる。
そんな馬鹿な話があるかと訴えるようなその目を見て、イサキは自分より
身長が高くなったシンザワの頭を昔のように撫でた。
「すまなかった」
申し訳なさそうに囁くイサキの体を強く抱きしめてから、シンザワはぽつぽつと
空港のタイルに涙の雨を落としていく。
その目はがらんどうで、言ってしまえばイサキとは違った空洞が出来ているようだ。
たちまちそれはすすり泣きに変わって行くが、イサキは動じずに「泣くな」と
無表情でシンザワに呼び掛ける。
「…単独で外国に行くなど誰にだってあり得る事だよ。増してや生まれつきのこの職業で、
命も体も惜しいと思う方が私の思考回路としてはねじれているな」
「…じゃあ、イサキちゃんをそんな目に遭わせた奴らもそんな思考か」
「そうなるかな。人間は自分が一番だから、私と今回調査した人間は同類、阿呆か」
「…同類……」
シンザワが少し言い淀むと、イサキはその肩を掴んで慣れない大きな笑顔を見せた。
「気にするな。私も今日はお前のように笑って全部忘れたい気分だよ?
今日は和菓子でも洋菓子でも食べていいと父上からは言われているし、買って行くぞ」
二人の様子を見ていた少数の野次馬の元から離れるために、売店へと歩き出す。
イサキは形だけというわけではない笑顔のままシンザワの手をほんの少し強く掴み、
「さて、何がいいかな」と楽しそうに歩調を強めた。
「…イサキは、全部綺麗だよな」
密かにシンザワはスマホの電源を入れ、件の科学者の名前を検索ワードに打ち込む。
「何か言ったか?」
「…イサキは綺麗だって言った」
こいつと違って。
科学者の研究所の所在地を見つけたシンザワは、この日初めて心からの笑顔を見せた。
アイ
(私の藍の瞳が彼の愛と相見えることは)