ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.69 )
日時: 2016/01/24 01:04
名前: 利府(リフ) (ID: mjEftWS7)

最近遅めに寝てるからかな〜頬のあたりになんかぷつぷつできてらっしゃるんです

以上利府の精一杯の女子アピールでした
っていうか好きキャラに男しかいないって時点でね、分かるよね
女性で惚れかかってるのはスマブラ参戦が決定したベヨ姐、バッボーイじゃなくてバッガールですかね

というわけで霧森シリーズも書きたかったから書きます、Parade Like Maria編です

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「悲惨だな」

霧森は、彼女の紡ごうとした言葉を遮った。
マリアは腹立たしそうに霧森の顔を覗きこみ、「HA?」とネイティブの発音で抗議の声を上げた。
学生服の襟をひょいと口元まで上げた霧森が俯き、「言った通りだ、お前の過去も悲惨だよ」と
まるで皮肉を言うような表情で、ロッキングチェアに座る少女を見る。

「そうね、アタシもアナタも悲惨ね。だって、アタシの周りにいた“仲間”なんて
 おじちゃまかおばさま、凶人相の死刑囚みたいなものばっかり。皆然るべき死だったはずのに」
「あぁ、そうだな」

「アタシ達は、どうして若い時に死んじゃったのかなぁ。アタシ多分ね、アノ子より年下だと思うの」

自分の人間らしくない伸びきった爪を一瞬だけ見てから、マリアは舟を漕ぐ杉原を指差す。
確かに良く見てみれば、杉原のいかにも中学生らしい顔立ちとは違って、マリアはまだどこか幼い。
いつか彼女が『近所のじいさんに小学生?って聞かれたの、腹立つ』と
言っていたのを思い出して、霧森は笑った。その口元は襟によって隠れているが。

「アナタも、痛い思いして死んだんでしょ。アタシも痛い思いしたの。痛かった、痛かったなぁ…」
「俺は、死ぬ時は痛くなかった。今も昔も、懺悔だけを持っているも同然だからだ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、…名前、なんて言ったっけ」
「彰介、霧森」
「逆になんてしなくていいわよ。共通言語だもの。ショウスケキリモリ?って、キリモリでいいのね」

変な名前。マリアは失笑してから、目の前の男の名前を再び呼んだ。

「キリモリ。アタシの昔の話、聞いて。こういうの、国際交流っていうんでしょ。
 もう祖国とニホンは仲良しだって聞いたわ。ルーズベルトは、まだきっと祖国にいるだろうけど」

「昔とは違うということぐらいは分かる。が、確証はない。杉原花はその点疎いんだ」
「そうなの?こんなに思いつめてるから、とっても素晴らしい政治家になりそうだったのに」
「日直という政治を壊そうとはしていたな。…今はどうでもいい話だ。マリア、お前の昔話を聞いてやる」
「日直?ジャパニズムは進化するね、岡本太郎かオリンピックかなぁ。まぁいいか。アタシはね——…」


*****

アタシはね、物心ついた時には幸せだった。
ちょっと重い眼鏡をかけていたけど、慣れてからは苦じゃなかった。
それで、芸術品みたいなモノクロの部屋にたった一人で住んでいたの。
ご飯も来たわ、猫足バスタブもあったわ。
かわいい猫を触って、たまにかまれて、お母さんがすぐに来て、
Pain,pain,go away…って包帯をぐるぐる、巻かれた。アタシってミイラだ、って笑ってた。

でもね、今思えば。不自然なの。

死んだからわかるけど、血って、赤いものだったのよね。
テレビの上に積まれてた本も、もしかしたら黒いカバーじゃなかったのかもしれないわ。
絵本の中の水彩画も、ニホンみたいな水墨画ばっかり。お母さんの本の選び方、ヘンだった。
それでね、アタシは学校に行くこともなく、三つのことをやりなさいと言われた。

まず一つ目は、視覚の神経生理学についてだけ学ぶこと。あれは、とっても興味深かったわ。
二つ目、病気にはなるべく気を付ける。手は3時間おきに洗って、健康に過ごすこと。

三つ目に、かけている眼鏡をはずさないこと。命に関わるから。

これが一番ヘンだった。
お父さんとお母さんに約束したの。だって、外したらマリアが死んじゃうって言われたから。
アタシ、怖かったからお風呂の時も外さなかった。寝る時も外さなかった。
でも、今思えばあの眼鏡ってニホンの眼鏡と全然違った。
スチームパンクの作品に出てくるようなデザインで、それに引っ張っても外れないよう設計されていた。
お父さんが作ったって言ってたわ。おかしいわよね、キリモリ。まるで眼鏡が心臓みたいじゃない。
その眼鏡をかけていたから、アタシの目の色を知ったのだって死んでしばらくしてからよ。

そしてアタシは、視覚のことだけを知っていった。
本は部屋中のどこにでもあった。コミカルで簡潔に描かれているものから読んでいたけど飽きちゃって、
お母さんに新しいのをねだったらすぐに買ってきてくれた。
今度は挿絵なんてなかった。図か、細かい文字がつらつらと500ページぐらい並んでいるの。
専門書もねだったわ。論文だって書いてみた。それを見たお父さんが喜んで、
すごいじゃないかマリア、って頭をなでてくれた。アタシすっごく嬉しかったわ。

これがあれば生きていける、って、これがアタシにとっての生きがいだ、って。
大きな部屋の中で本を読んで、テレビでDVDを見て学んで、たまに書いて。

ねぇ、キリモリ。

アタシ、幸せだったから、裏切られた瞬間がね、一番痛かったのよ。



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いろはにほへど
(白い石膏像の聖母)