ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみは休戦中[短編・作者の呟き] ( No.84 )
日時: 2016/07/16 23:28
名前: 利府(リフ) (ID: /kqYaBvn)

もう少し本編ストーリー進行させてからと考えていたのですが、
書きたいとこできたんでこっちに出します。
本編での死神(third chapter)のNo.63に関連する後日談。
今後の展開に支障がないと判断しましたので、どうぞ。よければ本編読破後に。
ぬるいグロ表現ありますのでそれには注意してください。あ、それと感動系なのに泣けません。
執筆BGM:パイロキネシス

*****

「こんばんわ」

それはもう、ただの夜だった。俺の心にともっていた命の灯とやらは消えて、
俺を形成していた皮も肉も骨も血も臓器も意識も、ぜんぶぜんぶ、燃やしつくされた日から
数日たった気がする。なにもわからないけど、あの記憶だけは俺のどこかにとどまっている。
恐ろしかった。仲間は俺を燃やした。俺の家の前で、母さんの前に死体をさらした。
母さんは泣いていた。それは俺にとっては、もう何の意味もなかったけど。
そういう事を考えるきっかけになったのが、目のまえで立ち尽くす白い影だった。

「もえたのがくやしいかい」

顔色は分からない。わかってやれない。俺に心はない。もうちゃんとした目もない。
耳は鼓膜を失った。んで、焦げ落ちた。それに残った俺の死体も腐っている。
それでもなんというか、変な感じになる。やめてくれよ、という声を発したかった。

「おまえのかあさんはね、いったのです。おまえのたいせつなぐろーぶもばっとも、
 おまえといっしょにもやせるならもやしてやりたかったと」

あぁ、そうだったのか。…も、しれない、な。分からないというのが本音だ。
だって、死人に口なしって言葉はあるけど、口がふさがれて涙は蒸発した。
目についてる、あの、そうだ。水晶なんたら、だったか。あれも。ない。
バットもグローブも握れない。俺には腕がない。体がない。足がない。
ホームランは打てない。ヒットも取れない。デットボールも受けられない。アウトも取れない。
ボールの動きだけ見える。それだけ、ただそれだけだった。つまりは、生きがいも燃えたらしい。

「くわえてわたしにおまえのかあさんはいいました。あのこにこのぐろーぶとばっとを
 とどけたい、とかなしそうに、ひつうそうにいいましたよ」

そんなの無理だって分かっているくせに。馬鹿だな、母さん。
俺の事はもうあきらめてって言った方が良かったのかよ。言えなかったよ、あのとき死んだから。

「あぁ…なんだか、おまえのけはいをかんじるのです。でてくるならでてこいや、あほ。
 わたしにきこえないこえでぼそぼそとしゃべられても、かのなくこえよりちいさいし、
 それでもくもをおとにしたようなきみのわるいこえなんです」

はは、なんか叱られた。この感覚、誰かに似ている。母さんじゃないなぁ、優しかったし。
父さんもよく怒ったけどちがうよ。もう俺が死んだことを知ってるんだろうな。
だけど、みんなは何でこの家に戻ってこないんだろう。
この声にいちばん近いのは、……あぁ。俺の鼻につきまくる態度だったやつか?
モモだ。あいつ、こんな夜にきやがった。

「わたしはおまえにいいましたよね。もういちどおなじないようのことを、
 ひっくるめてひっくるめて、ひっくるめまくってわかりやすくのべますよ。

 そう、わたしはおまえのためになにかをしたかった。
 きっとおまえもわたしのためになにかをしたかった。
 だからおまえはわたしをかばってくれた。ごめんね。ごめんね。ほんとうに…ごめんね…」

そんなにごめんね、って言われてもお前の気味は悪いままだぜ。
俺のないはずの顔の筋肉が、あるように思えるほど滑稽で苦く笑える言葉だった。
誰が言っているかこっちは把握できるから、まったくもって不思議だ。
ただ、ぼやけた体の頭のような部分の下から、きらきらと光る何かが見えた。


綺麗だよ。


ない口を開くことができただろうか。いや、できるわけなどないか。



「……なにか、いいましたか。いったろ、…いったろ?ねぇ、おまえ、もっかいいってよ」

今度はお前の声が小さくなっているよ。あぁ、聞いとけよ。伝わんねぇと思うけどよ。




モモの涙は綺麗だな。
聞こえるか。どうでもいいけどなぁ、俺が勝手に思ってたことを言っていいか。
お前の考えなぁ、根本的に。間違ってたんだよ。

俺は、お前が好きだよ。
きっとお前にとって認めたくなかったんだろうけどさ。
それと、モモ、ごめんねじゃなくてありがとーって明るい声で言えよ。
そうすれば生きてるうちは幸せだ。多分、な。



もしお前が一人で死んだら、まぁ、その、俺が……————





最後まで言った時、自分の意識がぼろぼろと溶けるのを感じた。
モモとの距離が近い。だから、最後のよすがを失うこの感覚など気にならない。
たぶん、泣いている。俺も泣いているんだろう。崩れる意識がきらきら、ちかちか光っている。

モモ、ありがとう。
こんな姿になった俺を見届けてくれてありがとう。
死んでから、やっと認められた感情はお前が好きだってことだ。
神様が許してくんなかったのかなぁ。でももう、操り糸とか何とかはぷっつりと切れた。

ありがとう。
俺を殺したやつに刃向かってくれて。
自分の苦労を隠して、努力を隠して、みんなをまもってくれて。

ありがとう。

俺の家族の願いを
かなえてくれて。


夜とモモがうすれていく。


あ、あそこ  に


みんな 







ありがとう、モモ






またな







*****


告別
(二人きりで葬送だなんて、それはまるで)