ダーク・ファンタジー小説

守るべきもの〜自衛隊を敵に回した元自衛官〜 ( No.4 )
日時: 2015/03/08 07:41
名前: 裏の傍観者 (ID: z5Z4HjE0)

夕美が紹介してくれた店に到着した。
驚いたことに、その店はつい最近テレビで紹介されていた有名な和食店だった。
ある番組で紹介されていた時に気になってテレビに夢中になっていた。
そのとき紹介された和食メニューの中に、日本全国の新鮮な魚介類を集めた全国海鮮祭セットという商品が紹介された。
あれを見てからこの和食が食べてみたくて、部下に調べさせてもらっているが今のところ発見したという情報はなかった。
「驚いたかしら?」
夕美が自慢げに言う。
その笑顔が時々、可愛く見えてしまうのはあえて伏せておく。
「あぁ、かなり気になっていた店だったんだ。でもなぜ?」
部下には頼んだが、夕美に頼んではいない。
「河瀬2曹官から聞いたのよ。食べたくて仕方ないくらい本気で探している店があるらしいって。」
そういえば、あの時かなり熱くなってつい本気で探してくれと頼んだ記憶がある。
全然情報が来ないから、見つからずに落ち込んでいた。
ここでご対面するとは思ってもいなかった。
「玲也ってば、意外と食いしん坊なのね。また1つ、貴方のことが知れたわ。」
最近よく思うことがある。
なぜ皆は俺の事を知りたがっているのだろうか。
知ってくれる分には何も問題はないが、1つだけ知られたくない事がある。
元自衛官だったことではない。
俺が自衛官だったとき、味方であった自衛官を手にしていた小銃で殺したことだ。
どうぜ皆は知っているかと思うが、だとしてもそれだけは話題にされたくはない。
ふと、彼女が背中をこちらに向けて何かをしている。
一瞬だけ見えたが、手にしていたのはメモ帳だった。
「・・・何をメモに書き留めている?」
「え?あ〜・・・お店の場所を書き留めているのよ!ほら!皆知りたがってたし、宴会とかで記録しておくと便利かなぁって・・・。」
俺が見たときは「結美2等尉官の記録帳」という怪しげなものに見えたが、気にしないでおく。
店に入り、店員に席を案内される。
早速テレビで気になっていた商品を注文する。
夕美は女性で人気が高いという噂のカニ飯セットを注文していた。
全国海鮮祭セットも気になるが、夕美の注文した商品にも少し興味がある。
「さてと、来るまでしばらく時間はかかるわ。のんびり話さない?」
「確か、夕美の愚痴を聞くお願いだったな。」
すると彼女は急に笑いだす。
「なにかおかしいこといったか?」
「いえ、ただちょっと意外だと思っただけよ。」
夕美は注文した後に店員が用意してくれたお茶をすする。
「その愚痴なんだけど、玲也の古巣に関係するの。」
話題にされたくないことが出てくる可能性がある。
がだ、今回は彼女の愚痴を聞いてあげることになっている。
夕美からの頼みなら、断る必要も無いので続ける。
「嫌がらせを受けたのか?」
「そのようなものよ。広報勤務だったの。事務室で書類まとめてたんだけど、その時に電話がかかってきたのよ。」
その電話は、防衛省からかけてきたらしく、面白いことに俺を探しているらしい。
理由はいくらでもある。
自衛官を殺害した罪を償わせるか、あのとき使っていた小銃や拳銃をそのまま国防軍に持ち込んできたからか。
そして俺はいつの間にか、特殊作戦軍では抹消対象者に指定されてしまっていた。
「防衛省ったらしつこかったわ。なぜか私のことも聞いてきたのよ。」
「それまたどうして?」
「こっちが知りたいわ。適当に流してたけど、最後は自衛隊へ来ないかって馬鹿げた事をぬかしてたわ。」
ヘッドハンティングか。
防衛省も、やり方が汚くなったもんだ。
それだけじゃない、全国に自衛隊の出張所が存在する。
要は、自衛官になるための窓口だ。
そこで、入隊希望者が手続きをし試験を受けて合格すれば晴れて自衛官となる。
だが、入隊前は必ずと言っていいほど不安なことがたくさんある。
どんな訓練をするのか、休みはあるのか。
どんな職種があるのかなどなど。
まぁ広報官は優しく教えてくれるだろう。
と思ったら大間違いだ。
広報官の中には、ありもしない充実した生活を語りだし騙して入隊させるという連中がいる。
入隊したらすぐに免許が取れるというのが、最近の口癖らしい。
金がすぐに溜まり、任期満了すれば任満金が貰え、その後どうするかは自由だと宣伝している奴もいるらしい。
その言葉に騙され憧れてしまう、高校を卒業したばかりの少年少女たちは入隊してしまう。
入隊し教育を終えて部隊に配属されると、話が違うじゃないかと誰もが言う。
結果、広報官に騙された。
これが自衛隊の広報官の汚いやり口だ。
俺の経験では、貯金がたまると言われて入隊したが、職種が機甲科に決まり、戦車大隊に配属されすぐに金を食われた。
演習で戦車乗員に出すためのコーヒーセットとやらで軽く3万円は消えて、それに菓子類を加えて+1万円。
演習に行く度に、毎回金を消費する。
菓子を食った分、乗員に請求をするが、どんなに計算しても赤字になるばかり。
1師団の戦車大隊は、俺から見ればただの金喰い虫だ。
実戦を想定した訓練だと言うのに、のんびりコーヒーなんか飲むのは恐らく自衛隊だけだ。
他にもたくさんあるが、これが自衛隊の裏の世界であり、真実だ。
入隊するときは冷静になって考えて、それでも入隊したいという奴がいるなら止めはしない。
俺に殺されるだけだけどな。
まぁ、実際国防軍と戦闘になった自衛隊はのんびりしていられないとは思うが。