ダーク・ファンタジー小説
- 守るべきもの〜自衛隊を敵に回した元自衛官〜 ( No.5 )
- 日時: 2015/03/08 08:32
- 名前: 裏の傍観者 (ID: z5Z4HjE0)
「貴方の言ってた通りだわ。私も一時期自衛隊に入隊しようって考えてたけど、もし騙されるってことを知らずに入隊してたら・・・想像したくないわ。」
「そうだな。」
頭がよくて成績優秀な夕美が自衛隊に入るのは、正直勿体ない。
彼女に軍というものは似合わないが、自分の意志となれば何も言うことはない。
「ごめんなさい、経験した玲也の前で言うことではなかったわ。」
「気にするな、今の俺は国防官だ。それに、夕美のいっていることは間違っていない。」
「そういって貰えると助かるわ。」
「話したかったらまた俺を誘えばいい。・・・お、来たみたいだぞ。」
店員が大きな箱を持ってきた。
机に置き、蓋を開けると中は全国海鮮祭セットだった。
そしてもう1つの箱が置かれ、蓋を開けるとカニ飯セットが入っていた。
「すごい迫力ね・・・。」
「テレビで見たときは小さく感じたが・・・、ここまでデカいとは思わなかった。」
俺が注文した商品は、この量からして恐らく4人分はある。
「夕美、最悪食いきれないから一緒に食べてくれ。」
「いいわよ、カニ飯セット食べてみたいでしょ?」
「気づかれたか。」
「分かるわよ、さっきからチラ見してたんだから。」
その後、約1時間かけて夕美と食事をした。
注文した品の旨さと量で俺は大満足だった。
夕美から少しもらって食べたカニ飯もかなり旨かった。
食事を終えて店を後にした俺と夕美はしばらく都内を歩き回った。
時間は2100。
遅い時間だというのに、未だに都内は慌ただしい人達で騒がしい。
「不思議ね。」
夕美が突然そんな事を言い出した。
「なにがだ?」
「昼は車がたくさん走ってて、人がたくさんいて、慌ただしい所だって思うのに、どうして夜になるとこんなにも美しくなるのかしら。」
「なるほど、夜景か。」
夜になると、色々なものが光を発する。
高層ビル、東京タワーにスカイツリー。
道路を走る車、道路の脇に設置されている街灯など。
店の看板も邪魔くさいと思うときはあるが、なぜこうも美しく見えてしまうのだろうか。
「確かに不思議だな、俺でも分からない。」
「あら、珍しく意見が一致したわね。」
「言われてみれば確かに。他の人間はどう思っているんだかな。」
「きっとバラバラよ。戦闘でもそう、自衛官や国防官の中にいろんな考えを持った人は沢山いるわ。」
夕美の言う通りだ。
誰もがなにも考えずに戦っている訳ではない。
何故日本人同士戦っているのかと思っているはずだ。
恐らく、自衛隊に残っている俺の同期も考えているはずだ。
自衛隊を裏切った俺を撃てるのか、殺せるのか。
だが俺は違う。
俺は戦場でしか出ない答えを探し続けるだけだ。
俺達国防官として、一個人として守るべきものはなんなのかを。
きっと夕美もそんな事を考えているのだろうか。
全く、いいことを考えるものだ。
自然と、俺の手は夕美の頭を撫でていた。
「ちょっ・・・いきなりなにするのよ。」
彼女は顔を真っ赤にして、なぜか嬉しそうな顔をしていた。
「すまん、つい癖でな。」
「玲也は癖が多いわね・・・。今のはいいけど!」
彼女は突然走り出す。
「お、おい!どこにいくんだ?」
彼女は足を止めて振り向く。
「帰りましょ、私達の居場所へ!」
そういって、夕美は笑顔で手を差し伸べる。
時々思うことがある。
夕美はクールで頭のいい奴だが、実際は純粋な女子なんだと。
「おう、帰ろうか!」
考えるのはやめた俺は、はっきりと返事をした。
差し伸ばされた手をとり、俺は夕美と赤羽基地へと帰隊した。