ダーク・ファンタジー小説

守るべきもの〜守リ手ノ戦争〜オリキャラ募集中!! ( No.53 )
日時: 2015/05/09 15:17
名前: 裏の傍観者 (ID: mNUslh/H)

翌日、相馬原駐屯地。
隊長室。
「・・・君が結美2等尉官か。」
陸将である世名津 雅光。
俺が元いた戦車大隊は、この男が率いる第1師団の師団長だ。
この男の率いる師団の部隊にいたのだから、俺のことは知っているはずだ。
「貴方とはこうして直接お話したことはございませんが、陸自にいたときは嫌でも広報誌で見たり、去年の師団祭で巡閲の際に貴方には敬礼をした。」
なんといっても、陸士が直接師団長と話すことは絶対にない。
「おい結美・・・。」
相模1左官は俺が喧嘩口調でいることから困った顔をした。
「そうか。巡閲で私に敬礼をした者が敵になる・・・か。世の中わからないものだ。」
「貴方こそ、あんな古びた74式戦車をまだ部隊においていらっしゃる。いい加減、平和ボケで腐った戦車部隊をもっと実戦的にしてほしいものです。」
「ちょっと、結美2尉官・・・。」
さすがに言葉がすぎたのか、夕美に抑えられる。
「確かに、結美2尉官の言うとおりだ。我々自衛隊は戦争をはじめから体験していたわけではない。諸君ら国防軍が存在するまでは、平和に漬かりすぎていて、精強のはずがこの有様だ。意見を感謝する、結美2尉官。」
俺はそれ以上何も答えないことにした。
そろそろ本題に入らなくてはならない。
「・・・では、世名津陸将。国防長官からお預かりした書類をお読みになられたと思います。」
相模1左官はそういって机に書類を陸将に向けて置く。
「陸自が国防省に攻撃を実行する直前に国防軍が先制攻撃を行ったように見せかけ、住民をやっとのことで避難させた。」
そのときの住民たちを覚えている。
ひどくおびえていて、逃げるのに必死だった。
「避難が完了し戦闘ヘリが攻撃。これは、我々国防軍にとって致命的な打撃を受けた瞬間だった。だが、当時撤退が遅れた神奈川県警の機動隊が撤退中に市民体育館でいまだ多くの住民が残っていたのを目撃し、機動隊は撤退を中止し、その場を死守した。優秀な警察官もいたものですな。自衛隊と違い、命を懸けないはずの彼らが、戦闘中に命を投げ捨て住民を守った。」
周りにいた自衛隊のお偉いさん達が騒ぎ出した。
その様子だと、初耳のようだ。
「つまり、貴方に渡された国防長官からの書類は、住民が避難を完了していない状態にもかかわらず、戦闘を行った陸将に対する責任であります。ご理解いただけましたかな。」
なるほど、そういうことだったのか。
俺も住民が避難を完了していなかった事は初耳だ。
神奈川県警の機動隊も、たいしたものだ。
「理解した。確かに国防省への攻撃を命令したのは私だ。」
世名津陸将はそういってお茶をすする。
これは確かに重い責任だ。
国民を守るはずの組織が、国民を危険にさらした。
本来あってはならない事だ。
「責任を受けるのは、おそらく師団長である貴方だけでしょう。防衛省や陸幕は国会から独立している、国会が防衛省や陸幕に責任を負わせようとしても、届くはずもない。」
「我々自衛官は、戦争を望まないはずだった。いつ崩れるかも知れない平和を守り続けているはずが、石頭の堅物共の命令により多くの自衛官をなくしている。その中に、結美2尉官が殺めた者も含まれている。」
車長、砲手、操縦手。
俺が戦闘で初めて人を殺したのはこの3人だ。
あの時は、躊躇いもなかった。
「我々自衛隊は、時代にただ流されていただけに過ぎないことが証明されている。・・・定年退官したら、静かに暮らしたいものだ。」
世名津陸将は席を立つと、日差しが強い窓の外を眺める。
飛び立っていくCH−47、チヌーク。
地上では隊員が汗水垂らして持続走をしている。
さわやかで充実していると感じ取った俺は無意識で笑ってしまう。
「何かおかしいかな、結美2尉官。」
陸将が俺が笑っていることに気づいたようだ。
「俺も昔はああして自衛隊生活を送っていたのを思い出した。戦車大隊に配属される前の話ですがね。」
俺はそのまま隊長室を後にした。